FENICS メルマガ Vol.116 2024/3/25
1.今月のFENICS
卒業の時期になりました。来月からは新しい生活を始めるべく、準備に忙しい方もいらっしゃるでしょう。
編集人は、出産して以来、初めてひとりで・・2週間強、11年ぶりに単身でアフリカのフィールドに行きました。一日も休みなく、村落に都市でのスラムに、とタイトなスケジュールでしたが、なんとか無事に帰還。ケニアに到着した日は、昨年に開催したナイロビのWaldorf Woodlands Schoolとオンラインで交流した東京・むさしの学園小学校の子どもたちからのレターをWaldorfに届けることから始まりました。そして調査の旅は、Waldorf woodlands school からむさしの学園の子どもたちへの手紙を受け取りに行くことで締められました。
研究者によるフィールドワークという行為は、研究費の獲得に始まり、家族の、まわりの方々の、そして勿論フィールドの方々の協力のもとに成り立つことを改めて感じます。またそれを・・フィールドでの経験をどのような形で「成果」として表現し、「返して」いくか。その成果発信の方法を考える際、ぜひ、FENICSのネットワークや場を使い、共にお考えいただければ幸いです。私たちのほうも、シリーズ発刊をはじめ、新たなイベントも新学期以降の企画を思考中です。正会員のみなさまからの発案もお待ちしております。
さて、本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(3)(中川千草)
3 私のフィールドワーク (2)(松岡由美子)
4 FENICS会員の活躍
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2. 子連れフィールドワーク(連載)③(中川千草)
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気忙しく、発見つづきの子連れフィールドワーク(年長さん・ギニア編)3
中川千草(社会学・龍谷大学・FENICS 12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
話は1年前、2022年の春に遡る。コロナ禍の日本で悶々と過ごし、さまざまなことが停滞しているように感じていたわたしは、3年ぶりに訪れた現地の「発展」に少々驚いた。まず、電力供給の安定化が進んでいた。以前は首都であっても、電気のない生活が数日つづくのが常だ。突然、室内灯が点き、どこからともなく「電気が来たー!」と子どもたちが喜ぶ声が聞こえてくることが当たり前だったのだが、滞在2週間のあいだ、毎日電気が「来た」。同時に、販売される電化製品の種類が増えていた。例えば、電磁調理器。東アフリカでは10年以上前に流行ったというものだが、ギニアのマルシェでようやく見かけるようになった。三輪バイクタクシーが登場し、渋滞は一層悪化したものの、移動手段の幅が広がったことはありがたい。まだ一軒しかないが、スーパーマーケットもできた。
こうしたインフラの整備は、子連れにとてもありがたい。子どもは、日本とは何もかも異なる環境に親の都合で連れて行かれる。アフリカともなれば、過酷であることは間違いない。にもかかわらず、なじむことを求められるのではないだろうか。渡航前に周りから、いい刺激になる、将来に役立つと応援してもらえることもある。連れて行く側としては、そこへの期待がないとは言えない。しかし、それはエゴだということも知っている。同行させることへのためらいは消えない。
ゆえに、「過ごしやすさ」は、自分に対する免罪符になる。その免罪符を手に入れるべく、2023年の渡航時には蓄電設備やwi-fi環境が整い、貯水タンクと水道が敷かれた知人宅をメインの滞在先とした。長くはない滞在ゆえに、親の体調面の維持という点でも、これは正解だった。
食事についても心配は尽きない。現地では、米が主食で、そこにシチューのようなものをかけた料理が多い。その一つにピーナッツ(ペースト)を用いたものがある。とてもおいしい。しかし息子は渡航前、ピーナッツを口にしたことがほとんどなかったので、間に合うように確認しなければならなかった。また、どうしても野菜不足になってしまうので、ビタミンやミネラル系のサプリメントを気休めに持参した。腸内環境が整うと信じて某乳酸菌整腸剤を服用しつづけてもらった。
盲点は、息子の犬に対するアレルギーだ。滞在先には2匹の室内犬が飼われていた。通気性はばつぐんだから大丈夫だろうと思っていたが、到着早々、目のかゆみと鼻水に襲われた。ただ、この症状の原因としては、土埃も考えられた。ちょうどハルマッタンが吹き荒れ、現地の人も咳や鼻水に悩まされる時期だ。わたしも数日はこうした症状に苦しんだ。常に大量の鼻水が出るというのは、息子にとって、ことばがわからないことや慣れない食事よりも辛かったようだ。そこで、「ダメ元」で現地の薬局に行ってみたところ、手に入る薬の種類が増えており、アレルギー症状を抑える薬を難なく購入することができた。
アフリカでのフィールドワークは予定が予定通りには進まないことが当たり前だが、特にギニアでは、ただそこにいることすらままならない。常にトラブルが起こる。しかし、住みやすさを実感できると、子連れのハードルは多少下がる。今回の渡航は、現地の「発展」にずいぶん助けられた。
つづく
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3. 私のフィールドワーク
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「おさるの国からこんにちは」 No.2 ’You are white.’
松岡由美子(東京外国語大学総合国際学研究科博士前期課程2年)
皆さん、こんにちは。ルワンダでの生活にも慣れてきたところです。今日は、「肌の色」についてです。日本では全く日常会話の中にはない「肌の色」、ルワンダでは特に初対面の会話の中で登場しています。
例えば、タクシーの運転手に ‘You are white.’と言われることが1度ならずあります。前回の記事No.1の不倫のお誘いをしてきたおじさんも車内で会話を始めるなり ‘I like your skin colure.’ と言ってきました。大抵これらの発言の後に続く言葉は「だから友達になりたい」です。この発言には、「あなたはお金持ちだし、ルワンダ人ではない。」という意味を含んでいます。しかし、私はお金持ちでもないですし、自分を ‘white’ だと思ったことはありません。もやもやしていました。
ある日、ルワンダ人の友人女性からこのような事を聞きました。ルワンダでは、肌を漂白することが流行っていると。私が「どうやって?そんなの可能なの?」と信じていない口調で質問すると、「市場で売っているクリームを塗ると白くなる。本当に白くできる。」と真顔で言うのです。途端に、マイケル・ジャクソンを思い出した私は、「美容クリニックに行くの?」と尋ねると「いや、市場に売っている薬。本当は、販売を禁止されているけど、聞けば奥から出してくれて簡単に買えるわよ。」と言います。「何の成分なの?」とさらに聞くと、「知らない。」とのこと。さらに、医師として病院で働き始めたばかりの男性友人に同じ事を尋ねてみました。すると彼は「成分は水銀が入っていて、身体に悪い。でも、本当に流行っている。」とのことでした。ルワンダでは、人びとは少しでも肌の色が薄いことを「綺麗だ」「かっこいい」と憧れているようなのです。
さらに、ある民宿に滞在したとき、このような会話がありました。首都キガリのベルギー人学校の教員女性3人と、そのお子さん1人と夕食の食卓を共にしていました。会話はフランス語でしたのでほぼ判りませんが、何か肌の色のことについて話していると判ったので、私が英語も理解出来るオーナーに通訳を頼みました。お子さんが、「地元の子どもたちに肌の色が白いと、はやし立てられたりする」、「道を歩く度に言われている」、「これはレイシズムだ」、と言うのです。この会話ももやもやしながら受け止めていました。
これまで私が勝手に「肌の色を話題にしてはいけない」とタブー視していました。しかし、ここでは、日常会話の話題です。そしてルワンダ人でも肌の色は一様ではありません。色々なルーツを持つ人びとです。そして、「あの子の肌の色は薄い。羨ましい」という発言を特に女子大学生から度々聞きます。ルワンダ人の中にある ‘white’ への羨望と、ヨーロッパ植民地主義への遺恨という一見アンビバレントな思いが彼らの中に共存しているようです。このような、「もやもやした思い」を抱えながら生活し続け、観察し続けることが、私にとっての重要なフィールドワークの一つです。
(つづく)
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FENICS会員の活躍
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小西公大(FENICS理事・東京学芸大変人類学研究所所長)さん
変人學会設立記念!第2回ヘンポジウム ~AI時代のキーワードは「変人」!?~
2024.3.30 (土)
AI時代が到来し、人間らしさとは何かが問われるいま。「変人」をキーワードに、教育界・ビジネス界・アート界など各界で研究・実践に取り組む人々が語る。「変人」はこれからの社会の新常識!?「変人」が気になるあなたも、「変人」を怪しむあなたも、ぜひ覗いてみてください。また本イベントは、アーカイブ配信を行う予定です。
主催:変人學会/協力:京大変人講座、東京学芸大変人類学研究所 変人学部
会場協力:FabCafe Kyoto
場所:FabCafe Kyoto (MTRL KYOTO)
参加申し込み(現地・アーカイブ双方とも)https://fabcafe.com/jp/events/kyoto/240330_henjingakkai
[式次第]
トークセッション
①『変人×AI ~AI時代を生き残るのは「変人」!?~』
山極壽一・越前屋俵太・六井淳
②『変人×ビジネス ~ビジネスパーソンって凡人?いやいや、みんな「変の種」を持っている・・・!~』
平尾譲二・小谷奉美・高村真央・加藤昌治・小西公大
③『変人×教育 〜ボクらが求めるミライの学校〜』
現役高校生3人
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
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