FENICS メルマガ Vol.32 2017/3/25

1.今月のFENICS

卒業式がおわり、そして入学式、それぞれの「春」がもうすぐ、という時期になりました。
フィールドにいる方もいらっしゃるでしょうか。本メルマガの編集長も海外へ、そして副編集者もケニア、子連れフィールドワークで、初めて子どもをナイロビの幼稚園に入れつつの調査生活です。本メルマガは暑いナイロビから発信です。

6巻、7巻は5月に発刊されます。ご期待ください!

それでは本号の目次です。

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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(中川千草)
3.フィールドワーカーのおすすめ(村橋勲)
4.フィールドごはん(田島知之)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動

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2.私のフィールドワーク
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フィールドの「おいしいもん」とは

中川千草(環境社会学、12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)

ある時、日本のフィールドワークでお世話になっているおばちゃんが、「何もないから、これ持って帰り」、とマグロの刺身を持たせてくれた。その地域でマグロの水揚げはない。それは、おばちゃんの家族や周りの人が漁でとってきたものではなく、集落内の商店で、おばちゃんが自分たちの晩ご飯用に買ってきたものだ。それを知っていたから、断った。しかし、おばちゃんは値札を剥がしながら、「遠慮せずに持っていき、おいしいかわからんけど」と言った。

これまで幾度となく、「海辺のフィールドワークはおいしいものがたくさんあるからいいですね」と言われてきた。この場合の「おいしいもの」とはたいてい、魚介類を指す。確かに、三重県の沿岸集落をめぐっていると、春になればワカメ、夏にはサザエやアワビ、秋から冬にはイセエビというように、旬のものが水揚げされる様子を目にする。ただ、基本的にはすべて出荷されるので、地元に残る量は多くない。

もちろん、食堂やレストランでおいしいものをオーダーすることはできるし、お金を出せば購入することもできる。たとえば、マラウイ湖湖岸のレストランで食べるカンパンゴ(ナマズの一種)のカレー煮や、ギニア沿岸の屋台で売られている鶏やヤギの焼肉などはどれもおいしく、やはりときどき食べたくなる。しかし、フィールドでありつける「おいしもん」とは、高価、新鮮、レアなものよりはむしろ、そこに暮らす人びとがわたしに食べさせたい、もたせて帰らせたいと思ってくれるもののような気がする。それは、上述したような晩ご飯のおかずとして買っていたものや、仏壇に供えられていた果物、自分が旅先で買ってきたお菓子だったりする。友だちからふと差し出される飲みかけのハイビスカスジュースは、自分で購入するよりもなぜかおいしい。

わたしも、フィールドを訪問する前には、それぞれの顔を思い出しながらお土産を用意する。差し出したものがどのように食され、どんな感想をもたれたかなんて、お互いに知らないが、食べてもらいたいという気持ちがあるだけで「おいしいもん」になる。ギニアで食する肉の味も、夜の屋台で一人こっそり食べるより、供物として思い切って購入したヒツジ一頭を、滞在先のファミリーみんなに振る舞う方が、満足できるものになる。「おいしいもん」は人間味にあふれている。どんな「おいしいもん」に出会えるか。それが毎回楽しみだ。

*写真キャプション:海辺のフィールドから届いた「おいしいもの=購入したみかん」と「おいしいもん=おまけで付けてくれたカボスとみかんジュース」

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3.フィールドワーカーのおすすめ
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村橋勲(文化人類学、5月に発刊予定の6巻『マスメディアとの交話』執筆者)
『空から火の玉が…<南スーダンのロストボーイズ 1987‐2001>』, ベンソン・デン、アレフォンシオン・デン、ベンジャミン・アジャク、ジュディ・A・バーンスタイン著 大黒和恵訳, 葉っぱの坑夫、2014年(=They Poured Fire on Us From the Sky, by Benson Deng, Alephonsion Deng, Benjamin Ajak & Judy A. Bernstein, New York: PublicAffairs, 2005)

*参考
ウェブサイト
(http://happano.sub.jp/happano/happano_store/Sorakara/inside-1.html)
映画
『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』, フィリップ・ファラルドー監督, アメリカ, 2014年, 110分(=The Good Lie, Philippe Falardeau, USA, 2014, 110 min.)

本書は、3人のスーダン難民による自伝的小説である。映画『グッド・ライ』の元ネタだが、小説の方はあまり知られていない。
映画では、第二次スーダン内戦下、スーダンを逃れ、アメリカに再定住した「ロストボーイズ」(両親を亡くしたスーダンの子どもたち)と彼らを支援する職業紹介所の女性との交流を描いていたが、小説では、彼らの故郷からケニアの難民キャンプへの逃避行が中心になる。

本書では、幼少期の村落での生活、民兵の襲撃による村と家族の喪失、エチオピアやケニアへの苦難の旅、難民キャンプでの生活などが詳細かつ生々しく描かれている。難民キャンプでは、彼らが自らと支援者をどのように捉えていたかが分かり興味深い。支援者に感謝しながらも、彼らが自分たちを動物のように扱うことに反発を覚え、また、必要な食糧が届かないことに苛立ちながらも、援助に依存せざるを得ない無力な立場を悲観している。

スーダン南部は、2011年に南スーダンとして独立したが、再び国内は内戦状態に陥り、すでに国民の4分の1以上が家を追われている。小説に描かれた現実は、過去の出来事ではない。私たちは内戦を直接、経験することはできないが、本書はそれを理解する手がかりを示している。
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4.フィールドごはん
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「鶏のから揚げ」

田島 知之(霊長類学)

私は、ボルネオ島のマレーシア・サバ州で、オランウータンの調査を2年ほど行ってきた。その間は現地の華人宅を間借りして生活していた。ホストマザーのおばあちゃんが作る料理はどれも美味しく、毎日夕暮れ時になってオランウータンが寝支度を始めると「今夜のおかずは何だろうか」と楽しみにしていた。

聞けば、おばあちゃんは若い頃、ホテルの厨房でコックをしていたこともあるらしく、料理へのこだわりが強かった。化学調味料は使わず、さらに食卓にのぼる野菜のほとんどが家の畑で無農薬栽培したものだという。

彼女はいつもどこかから買ってきたヒヨコの面倒を見ていた。昼間は柵で囲った運動場で放し、夜は野犬に襲われないよう、家の中に飼育箱を入れる。そうして大切に育てたニワトリは、正月やお祝い事になると中華鍋でからっと揚げられて食卓にのぼる。このから揚げが今まで食べた中で一番美味しかった。衣はカラッと、中はジューシー。マレーシアから離れ、日本で暮らす今でもその味は恋しくなる。夜中にこんな文章を書くとお腹が鳴ってたまらない。

 

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5.今後のFENICSイベント
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・6月に総会開催の予定です。4月上旬には日程が決定いたします。
・12巻『女も男もフィールドへ』にまつわるサロンの開催予定です。

*ご希望がありましたらお知らせください。
fenicsevent@gmail.com

 

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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第1巻
『フィールドに入る』(椎野若菜・白石壮一郎編)
「フィールドは「どこ」にある?:ホセさんのまなざしが教えてくれること」
(稲津秀樹)

多くの人は、「フィールドに入る」ことを、あたかも自分が慣れ親しんでいないヨソの地域や人間関係にイチから足を踏み入れることとしてのみ想定しがちかもしれない。しかし、調査やフィールドワーク、ひいては社会問題なるものを意識する「以前」の段階の人間関係を延長しながら到達できる問題領域においても、私たちと他者との関係をめぐる重要な課題が隠されているのではないだろうか。……

(1巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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会員のみなさま方の、力作が次々と新年になってから発刊されています。
シリーズと合わせてご参考までに!

(1)白波瀬達也 著 (5月に発刊予定の7巻『社会問題と出会う』執筆者)
『貧困と地域――あいりん地区から見る高齢化と孤立死』

「日雇労働者の町」と呼ばれ、高度経済成長期に頻発した暴動で注目を集めた大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)。
現在は高齢化が進むなか、「福祉の町」として知られる。劣悪な住環境、生活保護受給者の増加、社会的孤立の広がり、
身寄りのない最期など、このエリアが直面している課題は、全国の地域社会にとっても他人事ではない。
本書は、貧困の地域集中とその対策を追った著者による現代のコミュニティ論である。

初版刊行日2017/2/20
定価本体800円(税別)
ISBNコードISBN978-4-12-102422-0
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/02/102422.html

(2)塩原 良和 編著, 稲津 秀樹 編著(1巻『フィールドに入る』執筆者)
『社会的分断を越境する――他者と出会いなおす想像力』

A5判 288ページ 並製
定価:3000円+税
ISBN978-4-7872-3411-7 C0036
奥付の初版発行年月:2017年01月/書店発売日:2017年01月30日
・http://www.seikyusha.co.jp/wp/books/isbn978-4-7872-3411-7
移民、難民、テロ、犯罪、ヘイトスピーチ――国内外の具体的事例と現場を「越境」と「想像力」という視点から読み解き、そこに潜む問題性を浮き彫りにする。社会的分断を乗り越えるために、私たちの想像力をバージョンアップするアクチュアルな成果。

(3)石井 美保 (12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
『環世界の人類学―南インドにおける野生・近代・神霊祭祀』

出版社: 京都大学学術出版会 (2017/2/22)
ISBN-10: 4814000731    ISBN-13: 978-4814000739
絶え間ない変化の中で、神霊の力に満たされた野生の領域とのつながりを創りだしてきた南カナラの人々。顕在と潜在の間を往来するその営みに焦点を当て、人々とその環世界の生成と変容の過程を描きだす。人間と野生の力との出逢いと交渉を、生物と生そのものとのパトス的な関係性としてとらえなおす、新しい「環世界の人類学」の誕生。

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メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

環境社会学 at 龍谷大学

文化人類学

5月に発刊予定の6巻『マスメディアとの交話』執筆者


霊長類学

霊長類学