FENICS メルマガ Vol.55 2019/2/25

こんにちは、メルマガ編集人・椎野@ナイロビです。FENICSのみなさまも、国内外、フィールドや出張に出られている方も多いかと思います。各方面からのフィールドからの情報、また楽しみにしております。
ナイロビの私が滞在する地域は昨日、朝からずっと停電、水もとまり不自由な一日でした。配信が遅れ失礼しました。

3月には「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(ECフィルム)の上映とさまざまなイベントが開催され、4月からはFENICS理事によるオープンアカデミーが東京外大で始まります。
どうぞお楽しみに!

それでは今月号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(連載)(椎野若菜)
3 フィールドワーカーのライフイベント(連載3)(蔦谷匠)
4 FENICSイベント ECフィルム(3月)、東京外大オープンアカデミー(4月)
5 会員の活躍(澤柿教伸)
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2.子連れフィールドワーク(連載)
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二人子連れフィールドワーク(ナイロビ編)
椎野若菜(社会人類学・東京外国語大学AA研)

お国をちがえばオムツの赤ちゃんモデルも異なる

 いま、6歳になる息子と、昨年6月に生まれ8か月になる息子と、そして80をすぎた母とナイロビに滞在している。ふたつの科研の研究課題をかかえてケニアとウガンダで計25日間の予定、出国してから11日目である。日本学術振興会ナイロビ研究センターの溝口大助さん、稲角暢さん、またナイロビをベースにNGO活動等なさっている子持ちの方がたに大変お世話になりながら、今回の滞在が可能になっている。

 子ども一人か二人、というのがこんなに違うのかーー。準備の段階から時間のかかることを実感。ベビー向けと6歳児、というのも必要なものが全く異なるので、頭がくらくらする。夫ですら「君はナイロビにベビーシッティングに行くことになるのか」と二人で回している日常生活の現状をみながら呟いたほどだ。ましてや私一人で二人の子どもたちを連れてナイロビに行くとは、という状況を見かねた母が、荷物の番でも役に立つなら、と同行を申し出てくれた。初めは冗談だと思っていたので驚いたが、出発も近くなったころ有難く来てもらうことになった。

 私の妊娠・出産でまる一年は渡航がなかったため、長男はアフリカに行くというので自宅をでるタクシーを待つときから大変な興奮状態。さらに抱える荷物、ベビーとの移動ということもあって親子そろって注意力が散漫になったか、ナイロビに着いたころには長男の帽子と機内持ち込みの荷物(JetKids、長男の大事なおもちゃ、DVD)が無くなってしまった。

 長男は6年前、もうすぐ5か月になろうかという頃、2月に初めてナイロビに、二男は8か月になって初めてのアフリカデビューとなった。この6年間、私自身は長男の成長具合をみつつナイロビに調査に来ていたわけだが、今回また振り出しの0歳児とともに来ることになり、私自身の、またよりケニアの変化も感じることになった。

病院の診察で大泣きする二男(8か月)

 6年前に初めてベビーを連れてアフリカに来る際は、現地のオムツは質が悪く蒸れるかもしれない、とトランクの隙間にオムツを多く入れてきたが、今回はナイロビに着いてすぐの買い物でオムツを購入した。店頭に並ぶオムツの種類からも6年間の間にナイロビが変わっていることに気づく。洗練されたパッケージが多くなっており、日本と同じく赤ちゃんに肌さわりのよい(とうたわれている)プレミアムオムツも並んでいた。実際、スーパーマーケットのレジで私の前にいた女性はプレミアムオムツを購入していた。ナイロビの物価は東京と同じか、あるいは少し高いという感覚だが、ケニア人のミドルクラスの人口とその購買力がさらに増しているのを感じる。

 滞在6日目、ベビーの咳込みがひどくなってしまったので、以前、長男が中耳炎になり行ったことのある子どもの病院につれていった。高級住宅街のなかにひっそりとある、住み込みメイドが子どもを、また外国人が病院といったところだったが、いまやシティのファッション感覚のある若いケニア人夫婦が自家用車で多く訪れるところになっており、子どもが遊ぶスペースも拡充されていた。一昨年まえに訪れたインドの子ども病院では子どもとサリーをきた母と義母の組み合わせが多かったのが印象的だったが、ケニアの都市部では夫婦がそろっての子育てが広まりつつあるか?!
(つづく)

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3.フィールドワーカーのライフイベント(連載3)
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おっぱい研究者の子育て?それぞれの事情編?
蔦谷 匠(人類学・海洋研究開発機構)

胎盤のイラスト。出産した病院では胎盤を持ち帰ることができると聞き、ふたりでしばし考えた後に「持ち帰る」という選択肢に丸をつけた。家に持ち帰って十分に血抜きし、ごく一部だけ切り取って冷凍。退院後に解凍し、ひとくち分だけ炒めて食べてみた。こわごわ口に運び、ぎゅっと噛んでみると、なんとまあ、意外と肉の味がする。ブタ肉やトリ肉のような旨味があった。胎盤の本体はスポンジのような食感で、ちょこっとついていたへその緒の部分は弾力のある食感だった。想像していたレバーのような食感や味とはまるきり違っていたのだった (血抜きをしすぎて、いちど冷凍してしまったせいかもしれない)。悪くはなかったけれど、それでもやはり、なにかいけないものを食べているような後ろめたさがあり、こればかりは一度経験したらもういいかな、という気になった。

 私の場合、授乳・離乳や子育てを研究対象として扱っているものの、主な情報の取得源は論文や書籍ということになる。そうした文章には現実の多様性みたいなものが圧倒的に欠けているのではないかと常づね思っており、実際に自分たち夫婦が妊娠出産子育てをする経験を経て、この思いは確信に変わった。

 論文や書籍には、妊娠期間は○±○日とか、つわりや乳腺炎がある、○○集団の離乳年齢は○歳である、といったことが淡々と書かれている。しかしその背後には、人によって異なる細かな違いがある。そうした多様性のようなものは、(良い悪いは別にして)、自然人類学における学術的な文章からはどうしても抜け落ちてしまう。

 子供の誕生というライフイベントを経るにつれ、友人や知人の妊娠出産子育てに関する体験談を聞くことが増え、書かれた文章や物語を読むことも増えたけれど、見聞きすればするほど、本当にいろいろなケースがあるのだなあと驚く。つわり中に体重が7キロも減って入院生活を送った人、針で刺されるようだという乳腺炎、自宅のトイレでいきんだときにすぐに産まれた安産から、72時間にわたる分娩のあとに、癒着した胎盤を剥がされたときの悶絶する痛みまで。放っておけば数時間すやすや眠ってくれる赤ちゃんもいれば、常に抱っこしていないと泣き叫ぶ赤ちゃんもいる。

 私たちの場合、順調だった妊娠期間とは様子ががらりと変わり、あれよというまに緊急帝王切開が決まり、乳汁分泌もなかなか開始されなかった出産後の2日間ほどは、私たち夫婦ふたりとも非常に心細く、この現状を否定されるような言葉を見聞きしていたら、きっと心に深い傷が残ったことと思う。

 研究を通じて学んだ知識をひけらかすでもなく、自身の、強烈だが例数の乏しい経験にもとづいて人に意見や情報を押しつけるのでもなく、いろいろなケースがあってそれぞれの大変さや喜びがあるのだよね、というそれぞれの事情に寄り添うような態度でいられたら、と強く思ったのであった。

(つづく)

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4.FENICS協力イベント
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FENICSと協力して開催しているEC「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ:映像による百科事典」のイベントがいよいよ3月に開催されます。

(1)「映像のフィールドワーク展 —20世紀の映像百科事典をひらく」
3月16日(土)〜4月7日(日)11:00〜19:00 ※月曜休 
生活工房ギャラリー&ワークショップルームAB(三軒茶屋キャロットタワー3・4階)
http://www.setagaya-ldc.net/access/

本展では、ECフィルムの映像群を「住処」「音楽」「料理」「儀礼」などのキーワードで拾い集め、会場内に投影します。映像のなかの世界を紐解くように探索するだけでなく、来場者の発見が展示に反映されていく参加型の展覧会です。

〈展示内容〉
展示会場内に、仮設の「ECフィルム研究所」が出現!映像のフィールドワークを毎日やっています。

1.身体を通して映像を観る
ECフィルムが大画面に投影された展示空間では、ただ「観る」だけでなく、映像の中の行為(ひもを綯う、踊る、鳴らすなど)を「やってみる」体験ができます。デジタル化している約600タイトルの映像も自由に検索・閲覧できます。

2.さまざまなキーワードで、ECフィルムを再構成。
「回る」「たたく」「運ぶ」「笑う」など40のことばでECフィルムに映り込んでいるものごとを切り取り、世界中の営みが同時投影される映像インスタレーション作品《Diverse and Universal Camera》を初公開します。
《Diverse and Universal Camera》2019, 野口靖+ECわらしべ調査隊

3.ECラボラトリーズ!!
展示会場では、映像をめぐって連日なにかが出遭い、起こり、「実験」の痕跡が残されていきます。さまざまな〈ゲスト研究員〉が登場し、その日だけ上映される映像も。*すべて会場は4階展覧会場内、参加費無料。
FENICS正会員の野口靖さんによるECを使った映像インスタレーションが展示されます。(迫力あります!)
シリーズ著者のremo松本さん(http://www.setagaya-ldc.net/program/439/)や増野さんが、各種イベントに登壇します。詳細のプログラム、決まりましたのでこちらをご覧ください。
http://www.setagaya-ldc.net/program/441/?fbclid=IwAR2iPSFH9mQhrI6V7GyjI5DNpkRiF6gg4VVdUlRf1E_mVmyVgoSQUpVB_vI

(2)東京外国語大学オープンアカデミー 「世界を歩く:フィールドワークへのいざない」
受講申し込み、受付中!!

 FENICSの理事、澤柿 教伸(氷河地質学・自然地理学・第四紀学)、小西公大(社会人類学)、椎野若菜(社会人類学、東アフリカ民族誌)があわせて10回にわたり講座を担当します。高校生、大学生、一般を念頭においています。
【E1904136】 世界を歩く:フィールドワークへのいざない
https://tufsoa.jp/course/detail/428/
開催日(回数)
2019年04月08日〜06月26日 (全10回) 月、水 曜日
開講日:
4月8日(月) 4月15日(月) 4月22日(月) 5月13日(月) 5月20日(月) 5月27日(月)
6月5日(水) 6月12日(水) 6月19日(水) 6月26日(水)
時間 19:15~20:45
会場 東京外国語大学 府中キャンパス
定員 50 名 受講料 10,000 円

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5.会員の活躍(澤柿教伸)
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現在、第9巻『経験からまなぶ安全対策』絶賛編集中の澤柿教伸さんも登壇する安全対策に関するイベントです。

講演会・セミナーのお知らせ
■「雪崩教本」著者+医師による 講演会「雪崩から身を守るために」
主催: 雪崩事故防止研究会
協賛: (株)ゴールドウィン、(株)ミウラ・ドルフィンズ、(株)finetrack、(株)ぬくもりの宿ふる川、(株)マジックマウンテン、Mammut Sports Group Japan(株)、日本山岳救助機構合同会社
開催日時:2019年3月16日(土)10:00〜17:00
    (入場無料・事前登録不要)
場  所:栃木県大田原市 総合文化会館 小ホール
    (栃木県大田原市本町1丁目3-3)

内  容:
・ 「雪崩対策の基礎知識」?リスクマネジメントの考え方、ハザード、意志決定、装備?
 大西 人史(雪崩事故防止研究会・雪氷災害調査チーム・三段山クラブ)
・「積雪安定性評価」ー各種テストー「雪崩レスキュー」
 榊原 健一(北海道医療大学・雪崩事故防止研究会・雪氷災害調査チーム)
・「降雪と気象」
 澤柿 教伸(法政大学・雪崩事故防止研究会・雪氷災害調査チーム)
・「雪崩医療」
 及川 欧(旭川医科大学・雪崩事故防止研究会・雪氷災害調査チーム)
・「雪崩の発生メカニズム」?降る雪・積もる雪・雪崩の原因?
 尾関 俊浩(北海道教育大学札幌校・雪崩事故防止研究会・雪氷災害調査チーム)

http://www.assh1991.net

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以上です。
今月のメルマガはいかがでしたか。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。

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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
http://www.fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

霊長類学、自然人類学 |

(霊長類学、自然人類学)


社会人類学 at 東京外国語大学 |

FENICS代表