関連イベント報告:「フィールドとホームの往還から考える『より良き生』の探求―開発フィールドワーカーのライフイベントに着目して―」
秋保さやか(筑波大学・文化人類学)

 2018年11月24日(土)、筑波大学にて、国際開発学会全国大会が開催され、その一環としてラウンドテーブル「フィールドとホームの往還から考える『より良き生』の探求―開発フィールドワーカーのライフイベントに着目して―」を実施した。当日は、研究者と実務家の幅広い世代の方々、40名にご参加いただいた。

 はじめに、本企画の趣旨について簡単に紹介したい。国際開発を対象とした研究・実務において、フィールドワークが取り入れられるようになって久しい状況にある。長期のかかわりを要する方法論であるため、フィールドワーカーは結婚、出産、育児、介護といったライフイベントと折り合いをつけながら、調査研究や仕事を継続する道を探っており、ときに中断するといった決断をしてきた。こうしたフィールドワークとライフイベントについて、人類学や地域研究の領域ではFENICSの椎野若菜さんを中心に活発な議論が行われている。一方、国際開発分野の実務家や研究者は人類学者、地域研究者同様、海外をフィールドにしているにもかかわらず、フィールドワーカーがライフイベントを抱えながら、いかにフィールドワークを行っているかといった点は議論の俎上に上がることはほぼなかった。

 そこで、ライフイベントを抱えながら国際開発の研究・実務の分野で現地社会とかかわりを続けてきたフィールドワーカーの経験を学会員と共有し、国際開発分野におけるフィールドワークとライフイベントの特徴や教育機関、実務機関、学会が果たしうる役割について一緒に考えるためのラウンドテーブルを企画した。

 会の冒頭、筆者からの趣旨説明に続き、開発人類学を専門としインドネシア農村を中心にフィールドワークを行っている日本福祉大学の小國和子さんから、「農村フィールドワーカーの生活設計と開発アクターとしての『よりよい生活』の模索」というタイトルでご報告いただいた。小國さんは、インドネシア農村のスラウェシをはじめとする地域で、フィールドワークを継続されている。ご報告では、出産、子育ての過程で、どのようにフィールドとのかかわりや調査方法を変化させてきたのかという点について、お話いただいた。たとえば、出産直後実務者としてカンボジアで働いていた際には、村の女性に気遣われるという新たな関係性が生まれたり、育児中に開始した南東スラウェシでの科研調査では、これまで半年〜1年単位で行っていたフィールドワークを1~2週間と短い単位に変更したり、テーマ選びも可視的なテーマを選んだりと、いかにライフの状況に合わせ、調査方法を工夫しながら調査を継続してきたか、ということについてご紹介いただいた。

 次に、東アフリカのウガンダをフィールドに国際開発を対象とした人類学的研究を継続されてきた大阪大学の杉田映理さんに「ライフステージの変化が触媒となるフィールドとの繋がり」についてご報告いただいた。はじめに、国際協力の道に進みたいが、家庭をいずれもちたい、との理由でその進路を悩んでいる女子学生から相談を受けたエピソードを紹介。たしかに、海外の現場に行く際に出産や育児が制約になることもあるが、各ライフステージにおける「働く女性」としての悩みは負の影響のみをもたらしているわけではない、という。ポジティブな影響があるとすれば、どのような変化があるか。杉田さんは3つのポイント①出産や子育てを経験しているからこそ養われる目、②子連れでフィールドワークへ行った際に得られる経験、③フィールドからの学びと日本社会や自分の価値観の相対化、についてご自身の子連れフィールドワークの事例を挙げながらお話された。

 お二人の報告の後、東洋大学の箕曲在弘さんからコメントをいただいた。箕曲さん自身も子育てを行いながら、ラオスのコーヒー生産者を対象としたフィールド調査を長期にわたり継続している。通常、子育てがはじまると、フィールドワークの日数が減ることをネガティブに考えがちだが、今回の報告では、子連れフィールドのポジティブな面が強調されており、目から鱗だった、という。子連れでフィールドに入ることによってフィールドへの目線が変わり、子供の教育的な面でもよい影響を与えるかもしれない。最後に、「制約はあるが、そのおかげで創造性が生まれる」とも言え、その創造性や可能性については、地域や子供の個性、年齢によって違いが生じるため、それぞれの分野、地域別に考えるべきであろう、とまとめてくださった。

 箕曲さんからのコメントに対し、小國さんからは、子連れフィールドワークは、正直なところ「やむにやまれず」だったこと、杉田さんからは、フィールドが農村ということで現地の人が子どもを見守ってくれることもあり、安全のバリアが張られていた点がよかったと感じていること、そして子どもが大きくなったら予定が合わず連れていけなくなるので「連れていけるのはいまのうち」と先輩研究者から助言いただいたエピソードを紹介してくださった。

 その後のフロアとのディスカッションも活発に展開した。参加者の方々から多く寄せられたのは、子どもへの影響に関する質問だった。子どもと一緒にフィールドに入ることで、子どもを通じて得られた知見や子どもに与える影響、子どもにとってのメリット・デメリットについて質問がなされた。それに対し、小國さんからは自分が相対化できていないことを娘の体験から知ることがあったこと、杉田さんからは、親が想定しているものと実際に子どもが体験しているものが異なること、そこからの気付きについてお話いただいた。

 また、他の参加者からは、パートナーからどのようなサポートを得られたか、どのように理解を得たのか、といった質問がなされた。登壇者からは、現地に一緒に行ってもらえたことがよかった、「フィールドワークで何を得たいか」を共有し、理解し合う努力をすることが大事との回答がなされた。

 他にも、複数の男性の参加者の方から、ライフステージが変化することでいかにフィールドでの調査研究が変化したかという点について、ご自身の経験をご紹介いただいた。子育てをすることで、調査対象者への眼差しが変わった、より一層考えを巡らせられるようになり、研究と自分のライフイベントが重なり始めた、といった「子育てとフィールドワーク」に関するお話や、60代の参加者からは、自分がフィールドに出てしまうと、妻に介護の負担がかかってしまう、といった「介護とフィールドワーク」に関するお話をご紹介いただいた。

 また、ライフステージの変化にともなってホームとフィールドの関係性にどのような変化があったか、という質問に対し、小國さんからは、インドネシアからの技能実習生を家人の農園で受け入れることで、完全に別物だったホームとフィールドが沿うような形となってきたことを紹介しながら、その時々のライフステージに応じて、それぞれがホームで抱える気になる課題を語り合う場があっても良いのではないか、との意見が述べられた。

 終了後、参加者と登壇者が意見交換をする中で、学会のランチタイムにこのようなテーマの情報交換会を常時設けてはどうかとのアイディアや、ホームとフィールドの関係について、国際開発が外国でなくてもできたり、感じたりできる時代になっているのではないか、そうすると協力や開発といった意識も変わっていくのではないか、といった意見が出された。
今回のラウンドテーブルは、国際開発学会内でははじめてのライフイベントとフィールドワークに着目した議論の機会だったが、ディスカッションが盛り上がり、アットホームな雰囲気の中で参加者の個人的経験やそこから得られた知見を共有でき、大変有意義な時間だった。

 当日、コメンテーターの箕曲さんのお子さん(2歳)が、一緒に参加されていたこともあり、参加者の方からも教室の中にお子さんがいる空間があたり前に存在する自然さに涙があふれそうでした、とのコメントもいただいた。
本来、切り切り離すことが難しい「ワーク」と「ライフ」を切り離し、学会が「ワーク」のみを議論する場として捉えられた結果、これまで学会内でライフイベントについて話題に上がらなかったのではないだろうか。「ホーム」と「フィールド」もそうである。実は、つながりあっている。この「あたり前」に向き合ったときに、学会の場でもっとこういった議論がなされる雰囲気や子どもが遊んでいることが自然な雰囲気が創り出され、そのことが新たな開発研究やフィールドワーク論を生み出すきっかけになるのではないだろうか。

 今後も、今回のような情報共有・対話の場づくりを継続していくとともに、開発におけるフィールドワークの方法論的な議論も行っていきたいと考えている。

《参考文献》
椎野若菜・的場澄人(2016)『FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ 第12巻 女も男もフィールドへ』古今書院。

寄稿者紹介

文化人類学・民俗学 at 筑波大学 |

筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター