FENICS メルマガ Vol.62 2019/9/25
 
1.今月のFENICS
 
 ようやく秋の気配をすこし、感じ始めた東京です。大型台風の被害にあわれた方々、お見舞い申し上げます。行政による被災地のあまりの放置状態に、日本の未来の危うさを感じずにはいられません。フィールドにいるときだけなく、日常の拠点においても災害対策の必要性が切に感じられます。現在、編集中の9巻『経験からまなぶ安全対策』にはそうした意味でも多くの学びがつまっています。12月7日に本書のイベントを開催予定ですが、そのまえにも本書執筆者が関連した雪崩に関するイベントがありますので下記、詳細をご覧下さい。シリーズは4巻『現場で育つ調査力』も絶賛編集中です。
  また、FENICSとアラカワ・アフリカの共催イベントが11月9日に開かれます。以前行ったフィールドフォトコンテストのうち、アフリカ写真の一部が展示される予定です。該当されるフィールドワーカーには別途お知らせいたします。どうぞお楽しみに!
 
それでは本号の目次です。
 
ーーーーーーーーーーーーーーー
1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(連載2)    (谷口京子)
3 フィールドワーカーのライフイベント(連載10)(蔦谷匠)
4 FENICSイベント 11/9(土)アラカワ・アフリカ × FENICS  
5 会員の活躍             (澤柿教伸ほか)
ーーーーーーーーーーーーーーー
 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2.子連れフィールドワーク(連載2)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
初めての子連れフィールドワーク(マラウイ・エチオピア・ガーナ編)
第2回:マラウイでの調査

谷口京子(日本学術振興会PD)
 
 マラウイでの調査は、3県28校の小学校の訪問し、昨年、学力テストと質問紙調査に協力してくれた児童に再び、学力テストと質問紙調査をしてもらうことであった。児童一人一人について、学力や個人・家庭環境を追跡調査している。最初に調査を開始した夫の実家のあるンカタベイ県では、教育長から調査許可を貰ったので、その翌日から小学校の訪問を開始した。娘は日本では基本的に日中は保育園で過ごしているので、一度、親戚の子どもたちが通う幼稚園にも行ってみたが、一番小さな子で2歳であり、まだ8ヶ月ということで登園するのはさすがに早かった。そのため、調査中は、夫の母親や親戚が娘の面倒を見てくれた。夫の母親はちょうど近所の2歳の子どものベビーシッターをしており、日中は一緒に過ごした。ンカタベイ県では、約2週間調査に費やした。その間、娘は一度高熱が出て地域の病院に行ったが、マラリアではなく風邪であり、大きな問題を起きなかった。 

幼稚園で他の園児と一緒にお菓子を食べている様子

次は200kmほど離れたムジンバ県での調査であった。娘を夫の母親に預けて、私と夫だけがムジンバ県に調査に向かった。調査期間中、金曜の夜に娘のところに帰り、日曜の夜にムジンバ県に戻るということをしていた。またもや、一度、高熱が出たが、幸い私達が娘のところに戻ったときであり、マラリアでもなく、大したことがなかった。娘はマラウイに来るまで、一度も高熱を出したことがなかったので、環境の変化に身体が疲れて時々熱が出るのではないかと思い始めていた。  
さて、最後の調査県は、夫の実家から350kmほど離れた、首都から50kmほどのドウワ県であった。本県は、ンカタベイ県まで遠く、夫の実家に子どもをおいて週末に帰るというのは難しかった。娘が父親、母親の両方に2週間全く会えないのは心配であったこと、病気をしたときにすぐに対応できないのが心配であったことから、ドウワ県に連れて行った。娘を連れて調査ということで、校長先生や教員はこれまでと全く対応が異なり驚いた。 
マラウイの人は、本当に子どもを大切にしてくれると思った瞬間がたくさんあった。最初に訪問した小学校では、1年生の担任が娘を抱っこして、児童に娘を見せたいと行って、クラスへ連れて行った。その間に、校長と調査の打ち合わせができしまった。二番目に訪問した小学校では、校長先生が女性であり、校長室に入るとすぐに娘を抱っこしてくれた。そして、娘はそのまま抱っこされ、調査の打ち合わせが始まった。三番目に訪問した小学校では、私と娘に児童の周りに児童が集まってきた。この小学校は、県の中心部からかなり離れており、車もあまり通らない、外国人がほとんど訪問しない学校であった。児童は外国人を初めて見るかのように、私と娘を凝視していた。さすがに娘は少し驚いた様子であった。そうすると、一人の女性教員が娘を抱っこしてくれ、児童と話し合いをしていた。どうやら児童と私の娘の違いを説明していた。その間に、校長先生と調査の打ち合わせを済ますことができた。  

ドウワ県の小学校で教員が抱っこしてくれている様子

しかし、スピードを落として運転し、途中で休憩しながら学校を訪問したので、予定していた5校は訪問することができず、3校で時間切れになってしまった。このペースで調査を続けていくと、滞在期間中に調査を終えることができない。また、娘は毎日悪路の車の移動でかなり疲れていた。やはり娘を誰かに預けるしかないと思い、本県から200km離れたところにいる親戚にお願いをした。娘にはムジンバ県と同様に週末に会いに行った。娘はこの親戚に面会するのは初めてであったので、私や夫と離れるときは少し寂しそうであったが、特に問題も起こさずに過ごしてくれた。ドウワ県での調査も終わり、マラウイでの予定していた調査は無事に終了した。  
さて、次は、娘をマラウイにおいて、ガーナに調査に行く。(次回へつづく)    

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3.フィールドワーカーのライフイベント(連載10)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
おっぱい研究者の子育て 〜ライフイベントの報告編〜
 
蔦谷 匠(海洋研究開発機構)
 
ある研究会でのこと、研究者仲間のFacebook ステータスが「既婚」に変更されたという通知を数ヶ月前に目にしていたことを思い出して、同じくその研究会に参加していた彼に「おめでとうございます」と話しかけた。話の流れで「実は私も子供が生まれまして…」と話をした。この会話を聞いていたひと世代上の別な参加者からは、「最近の若い人たちは、そういう近況報告はみんな SNS でするものなのかと思っていました」とコメントが入り、彼も私も「いやいやいや、むしろ直接話す以上に SNS では気を遣いますよ」と口を揃えて返したのだった。  

私たちはどうしても、自分のことを無意識に他人と比較してしまうけれど、現代日本社会において、結婚や出産に関しては特に状況がシビアだ。結婚や出産は、当事者にとっては晴れがましく幸せな状況である (と世間的にみなされている) ため、そうした状況の当事者になりたいが現状なれていない人 (という言い方もだいぶ失礼な気もするけれど……) にとって、そうした報告を見ることは苦痛となり得る (と、私たちは他者の心をなかば勝手に想像する)。もちろんすべての人がそうであるわけではないし、こういう感覚自体がきっとすでに、現代日本社会に蔓延する窮屈な規範や価値観から大いに影響されているとは思うのだけれど、もし、結婚や出産の報告を見ることによって苦痛を感じてしまう知人がいるかもしれないのであれば、たとえほかの多くの人に伝える機会を逃すのであっても、報告はまあやめておこうか……とする感覚がある。そんな感覚が一部にあることを思って、彼も私も、SNS 上での結婚や出産報告には慎重だった。あるいは、いくら想像しても結局のところ想像だけではなにもわからない他者の気持ちを何重にも慮ることに疲弊して、「SNS 上でのライフイベント報告」という行為そのものから距離を取りたかったのかもしれない。  

研究会会場近辺のすてきな春の庭

単に私が敏感になりすぎているのかもしれないけれど、こんなふうに、SNS でライフイベントを報告することには、単に情報を伝達するという意味あいがあるだけでなく、SNSを取り巻く社会的な文脈からメタな意味づけもなされる。関係の薄い知人にまで簡素なテキストだけが流れていく SNS では、そうした投稿にどのような意味が付与されどのような感情が抱かれるか、予想できないところがある。投稿する自分のほうも、初めは、リアクションがあると、みんな祝ってくれてありがとう! とうれしい気持ちを抱くけれど、だんだんと「いいね」が積み上がっていくにつれ、たしかな実体をもった自分たちの人生が、無造作なテキストや写真などのオンラインコンテンツとしてただむやみに消費されていくような気がしてしまい、どことなく虚しさを感じたりもするのだった。  
こうした葛藤の背景には、他者の目を必要以上に気にしてしまう意識があるのだろうと思う。何を思おうと、何を思われようと、自分は自分、他人は他人、とみんなが自立していれば、報告する側も受け取る側も、苦痛を感じることはないのではないかしらん。しかし、結婚や出産には特に、社会からの強い圧力や価値観の強制が伴っているため、自他の比較がシビアになったり、他人の目が必要以上に気になってしまうのかもしれない。  
現代に普及したSNSでのライフイベント報告に付与される (と一部の人びとが感じてしまう) メタな意味づけについて、ほかの人がどう思っているかや、ほかの国の状況がどうなっているかを知りたいなあと思っている。  
とはいえ、知り合いの喜ばしいライフイベントの報告をSNSで見られることを、私はいつだってうれしく思う。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.FENICSイベント
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1)昨年につづき、アラカワ・アフリカ × FENICS イベントを行います。是非お運びください。
   
アラカワ・アフリカ番外編 開催
アラカワ・アフリカ × FENICS 
 
2019年 11月9日(土)10日(日) 【13:00~19:00】『FENICSフィールドフォト写真展』
 
11月9日(土) 公開講座
【14:00~15:15】 Ian Karusigarira 『伝統医療と呪術の狭間ーーウガンダ、カンパラに於けるステロタイプ化と表象』
【15:15~15:30】休憩
【15:30~17:00】椎野若菜・Ian Karusigarira 『日本で国際結婚による家族を築く』
 
会場:ギャラリーOGU MAG 東京都荒川区東尾久 4-24-7 http://www.ogumag.com/acces.html 最寄はJR田端駅  
入場料:1講義につき 500円      
2講義参加は 800円 
学生証提示の方は2講義 500円
ワンドリンク付き(予約不要)
 
連動企画: 
11月4日(月)-11月10日(日) (水曜日休館) 
毎日19時30分より
映画「チョコラ!」(1時間34分)上映@シネマ・チュプキ・タバタ
*11月9日(土)の「チョコラ!」上映後21時05分から
「チョコラ!」監督小林茂のトークイベントがあります。
 
2)12月7日(土)吉祥寺にて第9巻『経験からまなぶ安全対策』のイベントを東京・吉祥寺で開催することが決定しました!
自分自身が、また学生とともにフィールドワークするうえで、必須の重要な問題です。
ぜひご予定にお入れください!!!
 
〜〜〜〜〜〜〜〜
5.会員の活躍
〜〜〜〜〜〜〜〜
FENICS副代表の澤柿教伸さん、12月に発刊予定の9巻『経験からまなぶ安全対策』にご執筆の榊原健一さん、11巻『衣食住からの発見』にご執筆の阿部幹雄さんが登壇なさいます。
雪山でフィールドワーク、あるいはウインタースポーツのご予定の方もぜひともお運びください。大変貴重な機会です。
 
第2回講演会「雪崩から身を守るために」
詳細はこちら↓
2019年11月30日:宇都宮市文化会館
2019年12月1日:青山学院大学本多記念国際会議場
入場無料・申し込み不要
 雪崩事故防止研究会は北海道大学山スキー部・山岳部・ワンダーフォーゲル部のOBによって1991年に設立されました。北大低温科学研究所の雪氷研究者・雪山を楽しむスキーヤー・登山家・医師らが仲間に加わり、雪崩の科学的な知識・捜索救助法・低体温症を中心とする雪崩の医学知識の啓発・教育活動を続けています。毎年、北大クラーク会館で講演会を、北大手稲パラダイスヒュッテで雪崩セミナーを開催し、そのほかに道内数カ所で講演会とセミナーを開催しています。
 これまでの活動は北海道内だけで行われてきましたが、2017年3月に栃木県で発生した高校生ら8名が亡くなった那須雪崩事故の調査に当会の会員たちが関わりました。事故調査に関わってみて、雪崩事故を防ぎ、雪崩から身を守るためには雪崩教育が不可欠だとの思いを新たにしました。雪崩教育を受け、雪崩を回避する知識があれば、那須雪崩事故は防げたはずです。雪崩の捜索救助法と医学知識があれば、もっと助かる命があったかもしれないのです。
 
====--------------======
お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/
 

寄稿者紹介

霊長類学、自然人類学 |

(霊長類学、自然人類学)


学振特別研究員(PD) at 名古屋大学, 国際開発研究科

学校効果研究 / 留年 / 退学 / 転校 / マラウイ / アフリカ / 教育の質 / 学校効果 / 発展途上国 / 初等教育 /学校効果研究 / 留年 / 退学 / 転校 / マラウイ / アフリカ / 教育の質 / 学校効果 / 発展途上国 / 初等教育 /