FENICS メルマガ Vol.49  2018/8/25  

1.今月のFENICS    
 
 8月もおわりが近づいていますが、まだまだ酷暑が続きます。今年の日本の夏は、災害がまたおきないかとびくびくしているような気がします。
フィールドに出かけられている方も多いと思います。ひと夏で、複数のフィールドに行かれるかたも少なくないようですが、いかがでしょうか。実りあるフィールドワークでありますよう。
 
子連れフィールドワークの新しい連載(大平和希子さん)もお楽しみください。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.子連れフィールドワークの道(連載)(大平和希子)
3.フィールドワーカーのおすすめ (川口博子)
4.FENICSイベント
5.FENICS会員の活躍 (碇陽子)
                  
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2.子連れフィールドワークの道(連載)
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子連れフィールドワークの道 −ウガンダ・乳児・渡航準備編−①
大平和希子(国際関係学・東京大学大学院博士後期課程)
 

写真:成田空港から、親子出発前に記念の一枚!


 修士課程在籍中より、ウガンダ共和国の西部ブニョロ地域の研究を続けてきた。ウガンダへは何度も渡航しているにもかかわらず「ブニョロでフィールドワークを実施したことがない」というこの事実は、私にいつも後ろめたさを感じさせていた。そんな折、フィールドワークを伴う共同研究にお声がけいただき、いよいよ自分も一歩を踏み出せると胸を高鳴らせた。ところが、航空券購入の直前になり第一子の妊娠が発覚。様々なリスクを考え、初めてのフィールドワークは断念することとなった。

 それから1年半が経った2017年12月。10ヶ月になったばかりの息子を抱え、私はウガンダへと旅立った。近い未来のフィールドワークに備え、「赤ちゃん連れのウガンダ」を体験しておきたかったからだ。「何かあったらどうするの。」「こんなに小さいのに連れて行かなくても。」と、周囲からは心配する声ばかりが聞こえた。「アフリカ」という響き、そこから連想される数々のイメージはどうしても不安を煽るのだろう。

もちろん私にも全く不安がなかったわけではない。3週間の滞在を少しでも安全なものにするべく、念入りに準備をした。まずは予防接種。黄熱病の予防接種は9ヶ月から受けることができる。他の予防接種との期間が十分に空くよう、かかりつけの小児科医には、接種スケジュールの調整に協力してもらった。接種当日は心配していた副反応もなく、イエローカードを受け取るまでの間、検疫所で楽しそうに遊んでいた息子の姿が今でも印象に残っている。
 
 また、ウガンダに行くたびに怖いと思うのは、感染症よりも交通事故の多さだ。車線はあってないようなものだし、ふとメーターを見ると信じられない数字を目にすることもある。事故で命を落とした友人・知人も少なくない。エンテベ空港からカンパラ市内までの1時間をチャイルドシートなしで移動することには不安があったので、現地で暮らす日本人の友人に借りることにした。実際、エンテベ空港からの道のりでは、逆走してきた対向車に当てられサイドミラーが吹き飛んだ。別の日には、目の前でバイク事故も目撃し、事故対策の重要性を痛感した。

 もう一つは離乳食。7ヶ月から始めていた離乳食は進みが遅かった。ウガンダ滞在中に少しでも食べてくれるよう、好物のうどん、大量の赤ちゃんせんべい、その他レトルトの野菜煮込みや混ぜご飯を持って行った。あとは、細かな持ち物として、マラリア予防に乳児も使える虫除けスプレー、ポータブルの蚊帳、赤道直下の太陽から肌を守るために日焼け止めや帽子を準備した。

 なるべく荷物を持たない一人旅とは全然違う。スーツケースいっぱいに薬、食事、オムツ、ミルク、着替えを詰め込んだ。飛行機の中で退屈しないよう絵本やおもちゃが入ったマザーズバッグも、いつも以上にパンパンだった。息子を抱っこし、バックパックを担ぎ、マザーズバックを肩にかけ、いざウガンダへ。羽田、ドーハを経由して、私たちが暮らす富山からエンテベまでは21時間。親子二人の長旅が始まる。
つづく
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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「わたしのフィールドの夜空」

川口博子(10巻執筆予定 京都大学大学院 文化人類学)
わたしの居候先の父はちょっと考えてから、「豆、みっつ」と答えた。父が指さす豆が、輝く無数の星々のどれなのか正確にはわからなかった。わたしが知りたかったのは、アチョリの星座だったのだが、わたしの期待は裏切られてしまった。
アチョリ人びとは毎日、屋敷地の真ん中にある庭で焚火を囲んで家族のだんらんを楽しみ、雲の流れをみて明日の天気を予測する。空には、極めて現実的なまなざしがむけられていた。
 
わたしのフィールドは、ウガンダ北部のアチョリの人びとが暮らす地域だ。ほんの10年前まで、この地域では深刻な地域紛争が続いていた。今は恵みの雨だが、そうとばかりは言えない時代だった。雨が降ると反政府軍の足音がかき消されて聞こえないため、人びとは襲撃を恐れて一晩中、ブッシュのなかで身を寄せ合ったのだという。人びとが見上げる夜空は、真っ暗なうえに冷たかった。
そんな時代なんてなかったかのように、憩いの時間はときに真夜中まで続く。人びとには馬鹿にされるのだが、わたしは茣蓙の上に寝転がって、ぼんやりと夜空を見上げるのが好きだ。平穏な暮らしが包まれているように思えるから。
おすすめの本:
梅原猛編.1985.『日本の名随筆(30) 宙』,作品社.

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4.FENICSイベント
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今年12月のFENICSのイベントは、昨年に出版された『マスメディアとフィールドワーカー』の出版記念となります。
 
「ジャーナリストとフィールドワーカー(仮称)」
開催日時 12月1日午後,13:30~17:30
開催場所武蔵野公会堂(吉祥寺駅から徒歩5分)
 
子供向けの部屋も確保してあります。どうかご予定、あけておいてください!
 
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5.FENICS会員の活躍
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碇陽子さん(『社会問題と出会う』執筆者)からご著書についていただきました。

皆さまこんにちは。碇陽子です。この度、拙著を刊行いたしましたので紹介させてください。

碇陽子『「ファット」の民族誌:現代アメリカにおける肥満問題と生の多様性』
明石書店、4000円(税抜き)

http://www.akashi.co.jp/book/b373016.html

これは、2006年からアメリカ合衆国カリフォルニア州ベイエリア地区を中心として行ってきたフィールドワーク調査の成果です。アメリカでは、「肥満エピデミック」と言われるほど肥満が社会問題化していますが、その一方で、痩せていることが良いとする強い規範に反対している人たちもいます。公衆衛生の現場、ファット・アクセプタンス運動という社会運動の現場を中心とした調査を通して、生の多様性とは何なのか、ということについて分析考察しました。多様性について考えるきっかけになると考えています。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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寄稿者紹介

大学院博士課程 at 東京大学

国際関係学

文化人類学 at 明治大学

FENICSシリーズ第7巻『社会問題と出会う』執筆者

肥満の文化人類学


アフリカ地域研究 at 京都大学アジア・アフリカ地域研究科

ウガンダ