2021年12月3日、FENICS共催/JASCA主催「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」  
「フィールドに行くのは夢のまた夢?」 店主:嶺崎寛子(成蹊大学)

報告者:村上萌子(成蹊大学・学部生)

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FENICS共催/JASCA主催「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」(2021年12月3日)

 2021年12月3日、FENICS共催/JASCA主催「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」がオンラインにて開催された。19時からの第1部に開かれた嶺崎寛子さん(成蹊大学)のサロン店では、「フィールドに行くのは夢のまた夢?」をテーマに、結婚・妊娠・出産と研究の両立について、参加者のみなさんが経験談を話したりノウハウを共有したりした。のべ15名ほどの方が参加し、終始なごやかな雰囲気でのサロンとなった。

 まず冒頭に、サロン店主の嶺崎さんより本サロンの趣旨が説明された。若手の研究者支援などを行う上では、シンポジウムのような一方向的な情報発信のみならず、情報を求める側との双方向的な意見交換が必要であると考えていること。また、嶺崎さんは勤務先の大学でフィールドワーカーの同僚と出会うことの難しさを指摘し、フィールドワーカー同士の横の繋がりをもつ機会をつくることも重要であると考えていること。そうしたことを踏まえて、今回のサロンが企画されたことが説明された。

 まず、参加者それぞれが簡単な自己紹介と本サロンへの参加の動機について順に話していった。大学院への進学が決定している大学生や修士課程の学生、小さな子どもを育てている方、子育てを終えた方など、様々な年齢、立場の方が参加されていた。中には、小さなお子さんと一緒に、子育てで忙しいなか参加してくれた方もいた。本サロンへの参加動機も、将来のライフイベントの計画のために先輩方の話を聞きたい、研究活動と子育ての両立方法を知りたい、子連れフィールド調査での旅費のやりくりについて聞きたい、など様々であった。ある男性の参加者は、子育てをしている女性の同僚にどのように関わったらよいか悩むことがあったため参加したそうである。

 参加者の自己紹介を終え、最初に話題となったのは「産休・育休」についてだった。まず嶺崎さんは、産休の取得が法的に義務化されているのに対して、育休は同一の雇用主に1年以上雇用されていることが条件として定められており、その条件を満たしていない場合は希望者自身による職場への相談・交渉が必要であることを指摘した。そのような制限があるために、職場に直接交渉することをためらい取得を諦めてしまう人もいるそうである。しかし嶺崎さんは、たとえ雇用されたばかりの職場であっても育休の取得は遠慮せず交渉することが大切だ、と話した。現在子育て中の方々も、それぞれの産休・育休のとり方について話をしてくれた。たとえば、育休を取ることができず自分やパートナーの両親を頼ったという方、育休を取ったものの仕事が舞い込み予定より早く職場復帰したという方など、周囲の支援状況や自らの仕事に対する姿勢などによって育休の利用方法にも違いがあるようだった。また、育休中にどうしても調査すべきことが見つかってしまって、フィールドに足を運んでいたという方もいた。その際の費用は研究費で賄うことができず、私費を持ち出さなければならなかったそうである。このような「ワーク」と「ライフ」が密接な関係にある研究者、そしてフィールドワーカーならではの問題も話題にあがった。

 続いて、話題は「休日の仕事」に移った。2020年から2021年にかけて、オリンピックの影響で祝日授業日が例年よりも多く設けられた大学もあった。子育てをしている研究者にとって保育所や幼稚園などが営業していない休日に出勤することは困難であり、大学側はそれらを視野に入れた託児所の設置などの対応をする必要であるとの意見があがった。また、休日に開催される学会やシンポジウムへの参加が難しいという問題も参加者からあがった。発言してくださったある方は、発表者を務めるなど参加しなければならない学会などであればパートナーの協力のもと参加するが、興味がある程度のものだとどうしても諦めてしまう、と話されていた。このように、子育てや介護などを行っている研究者の研究機会をどのように確保するか、という問題も、今後議論が求められる。

 その後は、参加者の方からの相談や質問に、他の参加者が答えるというかたちで会は進行した。まず、現在生後まもない子どもの子育て中であり、数カ月後に子どもを伴っての海外渡航、さらに海外でのワンオペ育児を予定している方から、育児と研究の両立や子どもとの渡航について質問があがった。それに対して、自身が幼い子どもと一緒に海外渡航をした経験のある嶺崎さんからは、1歳を超えた子どもよりも離乳食の始まっていない生後3〜4ヶ月くらいの子どもの方がかえって渡航が楽だったことや、離乳食が始まっている場合には日本のレトルト離乳食が便利だったことなど、経験者だからこその具体的なアドバイスがあった。質問された方のように海外で子どもを連れて長期の調査・研究を行う場合、保育園や予防接種など様々な問題が立ちはだかる。こうした問題などを若手の研究者に伝えていくことも、今回のような場を開催することの意義といえるだろう。

 次に、修士課程の学生の方から、将来子育てと研究を両立する上で、いつ子どもを産むのがよいのか、また子どもを産むことをどのように決断したのか、という質問があがった。これに対してまず嶺崎さんは、職場の中で出産や子育てについて質問できる女性教員同士のピア・サポート関係を築くことの大切さを指摘した。その他の出産経験者の方たちからは、「ブライダル(妊活)チェックをきっかけに妊活を決めた」という話や、「博士課程中に出産は考えておらず、博論を出した後にパートナーと相談して決めた」という話があった。妊娠・出産のタイミングは、ライフプランの中でも非常に重要なポイントであろう。しかし、妊娠は自らの身体の状況に左右されるものであるため、「後回しにするよりもできるだけ早めに」という考え方もできる。母親やパートナーにとって望ましい形での妊娠・出産を実現するためには、先輩の多様な経験談を聞くことや、当事者の希望を実現するための制度面での支援が必要だ。そのような点で、今回挙がったブライダル(妊娠)チェックについての情報などは、なかなか他の場では得ることのできない貴重なアドバイスだった。

 今回のサロンでは、女性だけでなく男性の目線からの意見もうかがうことができた。第二部のサロン店主でもある岩佐さんは、最近の大学院進学希望者は女子学生が多く、男性教員だと女性のライフプランなどについてのアドバイスで悩むことがある、と話された。そのため今回のような機会は非常に重要であり、より学生向けのセッションや事例集などがあってもよい、との意見もあった。また、子育て中にフィールドに出ることの困難さについては女性ならではの問題として捉えられがちだが、単身赴任の男性の場合、パートナーにワンオペ育児を任せることになってしまい、長期休みにパートナーに子どもを任せてフィールド調査に行きにくい、という問題があることも指摘されていた。その他には、男性の育休取得について前例を作った男性教員の存在や教員間での「育休は取るもの」という共有認識をつくることの必要性、厚生労働省の認定制度「くるみん」の活用などが話題にあがった。

 サロンの終盤には、女性のライフイベントと研究を両立する上で重要となるパートナーとの交渉方法やパートナーの選び方が話題となった。参加者の方からは、パートナーとは日々交渉の連続であることや、「相手を教育する気持ち」で年月をかけてコミュニケーションをとることの必要性について話があった。また、子育てをするにあたってはパートナーの協力だけでなく、親族の協力や行政の「ファミリーサポート(育児支え合い)」などに頼ることも必要、との意見もあった。そして、選んでしまったパートナーを「教育」することには非常に労力が必要であるため、初めから理解の得られるパートナーを選ぶことも重要ともいえる。学生の参加者からの「どのようにパートナーを選んだらよいか」という質問に対して、嶺崎さんは「ジェンダー平等に対する意識が高い人」を選ぶことが大切、と答えた。また岩佐さんはそれに付け加えて、家事などで自分が「できる」ことと「できない」ことを遠慮せずパートナーに伝えることが重要、と話した。女性が全部できる、男性はできないことがあっても仕方がない、と思い込まず、そのような気持ちがあればそれを言語化し話し合うことがパートナーとの関係性を気づく上で重要なようである。

 会の最後には、フィールドワーカーを父親にもつ参加者から、フィールドワーカーの子どもという立場からの体験談があった。その参加者によると、フィールドワーカーの親の姿や、幼い頃に一緒にフィールドに行った経験などが、自分が研究者を目指すきっかけになったという。その方にとっては、フィールドワーカーの父親をもつということが大きな社会資本となっているようだった。これは子どもを持つフィールドワーカーにとって喜ばしいエピソードではないだろうか。ただし、その影には家族を支えるパートナーなどの存在があることも忘れてはならない。

 以上のように、本サロンでは様々な方から多くの質問やそれに対するアドバイスをうかがうことができた。話題はサロンの終了時間になっても尽きず、終了時間をまわった後も子育て中の参加者の方たちの間で授乳の方法や乳腺炎の対策について実践的なアドバイスが飛び交うなど大盛況であった。このような実践的なアドバイスはシンポジウムなどの場では共有することが難しく、今回の場だからこそ話せることだっただろう。このような会話が交わされたことに、今回のサロンが開催されたことの最大の意義を感じた。

 「女性研究者」は、時に「家庭生活」とは遠い存在として語られる。現在の日本社会では女性が結婚・妊娠・出産することはごく当たり前のこととして認識されているのにも関わらず、女性の研究者たちの「ワークライフバランス」に関する議論は十分に進んでいないのが現状だろう。さらに子どもをもつフィールドワーカーとして研究を続けるには、長期の海外調査など困難が伴う。そして、研究者の道を志す学生たちにそのような情報が伝えられる機会はほとんどない。「家庭を犠牲にするほど研究に打ち込むことはできない」と研究の道を諦めてしまう女子学生もいると思われる。しかし、今回のサロンには「研究」と「家庭」を両立しようと奮闘する研究者たちの姿があった。そのような研究者の経験談を聞くことは、自分の結婚や妊娠、出産というライフイベントについて計画する上で非常に参考になる。もちろん、そのような話を聞いた上で結婚や妊娠をしないという決断をすることも1つの選択肢だ。今後も今回のような場が開催され、全ての研究者や研究者を志す若い世代が自らの将来について考え、多くの選択肢を知る機会を得られることを願う。