FENICS メルマガ Vol.76 2020/11/25 

1.今月のFENICS
 
信じられないことに、今年もあとひとつきとなりました。
やはり、素人でも想像したように、日本全体にcovid-19感染がひろがってしまいました。みなさんのフィールドの状況はいかがでしょうか。
  本号では、オーストラリアに暮らす西谷さんが寄稿してくれました。コロナ禍、留学生の多い大学にはしわ寄せは大きくきており、とくに女性研究者への負担は共通たものがあり、うなづく方も多いと思います。FENICSのメルマガも翻訳してオーストラリアの女性たちとシェアしたい気持ちにかられました。
  私も個人的に、このひとつきは、コロナ禍で何もできなかったしわ寄せが一気におしよせ、まともな日常生活も送れない状況にあります。
  そしてこの国のリーダーに思うのは、日々大きなリスクとともに身をすり減らしている医療従事者へのまともな手立てがない現状、感謝の念も感じられず抜本的政策もなく目もあてられません。
いま、ウガンダの人びと(People Power Movement https://peoplepower.org.ug/)は1986年から大統領の椅子にすわる暴君と化したムセベニ大統領と戦っていますが、日本の人びとはいま、あのようなパワーはあるでしょうか。
 
それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク (西谷真希子)
3 子連れフィールドワーク 連載4(蔦谷匠)
4 FENICSからのお知らせ 
5 FENICSイベント 
6 会員の活躍 
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2.私のフィールドワーク
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コロナ禍のオーストラリアの大学について  

西谷真希子(ラトローブ大学 太平洋島嶼民の移民研究)
 
私はオーストラリア、メルボルンのラトローブ大学で人類学の教鞭を取っている。日本からフィールドワークをしに当地に初めて赴いたのが2006年。その後、こちらの大学の博士課程に籍を移し、卒業、そのまま結婚、就職して居付くことになってしまった。太平洋島嶼部からオーストラリアへ来る移民とその子供たちについて研究をしていたら、自分も移民の一人になってしまった。コロナの影響で世界が大きく変わりつつある中、今回は、オーストラリアの大学の状況について書いてみたい。私事ながら、今年の3月に第二子を出産し、育児休暇の身であったため、大学教員当事者の経験、というよりも、休暇中の私の見聞記といった体になることをお許しいだたきたい。
  
2月末はコロナのニュースが次第に緊迫し始めた頃で、オーストラリア政府が海外渡航者に制限をかけ始めた時でもあった。このため、留学生がオーストラリアに入れなくなってしまって大学は騒然としていた。新学期が始まり徐々にメルボルン市内でもコロナの患者が出始めたころ、大学はオンライン授業に切り替わり、教員は急に全ての科目をオンラインにしなければならなくなった。ちょうど同じ頃、私は子供を出産し、入院している最中に、ビクトリア州は緊急事態宣言が出され、トイレットペーパーがスーパーから消える買い溜め騒動が起き、病院の廊下にあるアルコール消毒液が盗まれてなくなってしまう事態に。ロックダウンは今か今かとメディアが騒いでいたら、3月下旬についにロックダウンが開始。レストランやバーの営業が制限され、小中高校も4月中旬からの第二学期はオンライン授業に切り替わった。  

公園の遊具は二カ月余り使用禁止だったので外で遊べるようになって親子ともに喜んでいます。マスクをしてないと大人は罰金$200というルールも11月までありました。日本では普通の風景ですがメルボルンでマスクをしているのは本当に今まで見たことありません

「ステイホーム」政策下での学齢期の子供たちがいる共働き家庭の生活は側から見ても壮絶だ。ただ、これは日本と変わらないかもしれない。急に全ての授業をオンライン化させなければいけない中、自分の子供たちの勉強の面倒もみてあげなければならない。とても研究どころではなく、多くの大学教員が授業をこなすことで手一杯だったのではないか。「大変そうだね」と育児休暇の身である私が口に出すのが憚れるくらい、友人、同僚のストレスがFacebook やtwitterから垣間見えた。中でも女性研究者の間で、ソーシャルメディアでよくシェアされ始めたのが、コロナ禍で広がる英語圏アカデミアにおけるジェンダー格差に関する記事だ。Natureなどの科学雑誌や人文社会科学系の学術雑誌が統計を取ったところ、男性の投稿論文数はコロナ禍でもほとんど変わらなかったり、むしろ増加する傾向も見られたが、女性の投稿数が劇的に減ったという。  

ネオリベラル化が進むオーストラリアの大学で、この投稿論文数の差は様々な事柄に響く。大学教員は、Lecturerから Professorまで階級ごとに、投稿論文の本数、外部研究獲得資金などのノルマが定められている。別にノルマを満たさなくても罰則があるわけではないが、過去六年間の平均論文数、獲得資金などによって、次の年の教える科目数の増減が決まったり、サバティカルの申請や昇進の審査の材料にされたりする。つまり、2020年に論文が出版できなかったということで、後に男性教員よりも多くの授業を持たせられたりする可能性があるのだ。多くの大学でコロナ禍の影響については考慮に入れる、ということが話されているようだが、どこまで具体的に男女格差を改善するのかについては曖昧だ。  

8月からおよそ2ヶ月間メルボルンでは夜間外出禁止令や5キロ以上の移動制限など、様々な厳しい規制によって生活が制限されたが、ようやく最近学校も始まり、少しずつ社交の自由も手に入りつつある。早く日本とオーストラリアの行き来がまた元に戻ることを切に願っている。
 
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3.子連れフィールドワーク(連載)
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ペルー子連れフィールドワーク (3) 調査地での様子
 
蔦谷 匠(FENICS正会員・人類学・総合研究大学院大学)
 
今回の調査は、山中の村のはずれにある博物館の収蔵庫で実施された。博物館の向かいには宿泊施設があり、食事は徒歩で数分の距離にある雑貨店と食堂を兼ねた家でいただいた。自動車が頻繁に行きかうこともなく、そこにいる人びとはだいたいお互いが顔見知り。宿泊施設の裏手の階段がかなり高く急だったことを除けば、子連れフィールドワークをするのにかなり安全な場所だったように思う。  

そのような環境で苦労したのは、仕事時間の確保と時差だった。私たちの子供はひとり遊びをあまりせず、さびしがりやで、飽きっぽい。そのため、脇で遊ばせておいて親は仕事、ということがほとんどできない。寝起きする部屋と仕事場が近いという利点を活用し、片方の親は部屋や外で子供の相手をし、もう片方は収蔵庫で遺物の整理やサンプリングをする、という分業を互いにとりかえながら調査を進めた。子供が昼寝を始めれば、待ってました!と仕事道具を取りだしたり収蔵庫に駆けつけたりしていた。  

前述の雑貨店兼食堂には、おかみさんとおやじさんの娘が3人おり、まだ10代前半くらいの下のふたりが特に子供をかわいがってくれた。午後になると、小学校前くらいの近所の男の子をつれて博物館のあたりにやってきて、子供の名前をスペイン語風に呼んで遊びに誘う。子供も最初の1週間くらいは怖がっていたものの、滞在の終わり頃にはすこしは慣れて、抱っこされたり手をひかれたりしてなんとか遊びに行くようになった。まだ1歳4ヶ月の小さな子供の扱いも手慣れたもので、遊んでいるさまを危なげなく見ていることができた。ヒトは共同保育をする動物で、実は、有力な保育者は年上の近所の子供であるという話を人類学の論文や書籍でたびたび読んだことがあるけれど、そうした状況がまさに目の前に展開していたのだった。  

子供はなかなか時差に慣れなかった。日本から14時間の時差のあるペルーでは、昼夜が逆転する。ペルーについた最初の夜から、子供は深夜1時 (日本時間の15時 = お昼寝から起きる時刻) に起きてテンション高く遊びはじめ、疲れて明け方3時くらいに眠り、朝6時くらいにまた起きるという睡眠リズムを示すようになった。日本時間では深夜にあたる午後のお昼寝の時間と、その日の疲れがたまって不機嫌になる夕食後はよく眠ってくれたから良かったものの、毎日深夜に起こされ、子供と遊んだり散歩に行ったりしてなんとか眠ってもらう生活が1週間は続いた。(1週間くらいしてやっと夜通し眠れるようになってくれた後には、悲しいことに、帰国の日が目前に迫っていた)  

しかし、夜中の散歩も悪いものではなかった。調査地についてからは、深夜に起きておっぱいを欲しがる子供を妻が授乳し、次に私が抱っこひもを使って散歩に連れだしていた。電灯がほとんどないため夜は真っ暗で、遠近感がおかしくなるようなアンデス高地のすばらしい眺めは見えない。けれど、星がとてもきれいに見えた。懐中電灯で照らしながら道をぶらぶら歩いていくと、冷たい霧が山の斜面をぬぼーっと降りていくのに巻きこまれたりして、ここは高地なんだなということを感覚的に理解できた。どこかの家の飼い犬がおとなしく眠っているのを遠くから眺めたり、道をもぞもぞ動く黒いものに光を当てたら毛むくじゃらのクモだったりした。道には人ひとり歩いておらず、地球の裏側であっても人間は夜中には眠るのだな、という当たり前のことを思ったりもした。  

その一方で、そうやって散歩に連れだして眠ってくれたり、ベッドに寝かせて親もうとうとしはじめた頃、近所で飼われているニワトリがいきなり雄叫びをはじめ、びっくりして子供が起きてしまうこともしばしばあった。ニワトリが飼われているようなのどかな山中だからこそ夜に外を出歩いても危険ではないのだけれど、いくらなんでも深夜に「コケ!コケ!コケコッコー!!」はないのではないか。寝言なのか。鳴かなければ死んでしまう、というくらい渾身の力をふりしぼって雄叫びをつづけるニワトリに対して、唐揚げにして食べてやろうかと、眠気で朦朧とした頭でよくわからない殺意を抱いたこともたびたびだった。  
 

夜の散歩中に見た猫。「にゃんにゃがいるよ」と子供に伝えると、猫を見て「にゃーにゃ」と繰り返していた。

写真:夜の散歩中に見た猫。「にゃんにゃがいるよ」と子供に伝えると、猫を見て「にゃーにゃ」と繰り返していた。
 
(つづく)



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4.FENICSからのお知らせ
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フィールドワーカーの性被害に関するイベント、第二弾を12月に企画中です。
テーマ提案も、いつでも受け付けますので、気楽にご連絡ください。
 
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5.会員の活躍
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小林美香さん(写真研究者)
 
「表現とジェンダーの関係性 − 私たちは生活の中で何を見ているのか」 (T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO×Liberalarts Lab)
 
誰しも日常で何気なく目にしている脱毛広告を事例に議論の起点として、哲学者の倫理的な視点や弁護士の法律的な観点を交えて、ジェンダー表現などの考察や問いを深めていくトークイベント!
Fri Dec 4, 2020
7:00 PM – 8:30 PM JST
VENUEOnline event
TICKETS
一般(学生応援枠) ¥1,500
無料(SNSシェア枠)
 
来月オンラインイベントがあります。 お時間あれば是非。後日アーカイブ公開もされるそうです。
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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