FENICS メルマガ Vol.77 2020/12/25
 
1.今月のFENICS
 
クリスマス、いかがお過ごしでしたか?
東京をはじめ、ますますコロナの状況は深刻になってきました。みなさま、どうかどうか、お気をつけてお過ごしください。
 
フィールドのコロナの状況もみなさん、気になっておられると思います。FENICSでは初めて、椎野のフィールドの小学校の水タンク設置のためのクラウド・ファンディングをしたいと思います。
どうかご協力おねがいします。みなさんご自身のフィールドについてもお考えになり、ともに協力できればと思います。これをきっかけにご相談ください。また、方法についても忌憚なきご意見いただければ幸いです。
 
今回はグリーンランドにいる山崎哲秀さんから、ご投稿いただきました。家族と離れてのフィールド活動についても、ご覧ください。フィールドワークは、ご本人と、そしてそれを支える家族のたまものでもあります。
それを双方がどうリスペクトしながらすすめていくか。とても重要な課題です。
FENICSから山崎さんの活動の応援もかね、犬ぞりの犬たちのカレンダープレゼントがあります!
 
ベビー連れのフィールドワーク記、蔦谷さんご自身は今回が最後。次回は連れ合いの方からご投稿いただけます。いまのうちに、コロナ後の子連れフィールドワークについても戦略をねりましょう。
 
それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク (山崎哲秀)
3 子連れフィールドワーク 連載4(蔦谷匠)
4 FENICSからのお知らせ 
5 FENICSイベント 
6 会員の活躍 
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2.私のフィールドワーク
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グリーンランド最北のシオラパルク村から
 
 山崎哲秀(北極探検家・『フィールドノート古今東西http://www.kokon.co.jp/book/b222719.html』13巻 執筆者)
 
皆さんこんにちは。初めて投稿させて頂きます、山崎哲秀と申します。
 
簡単に自己紹介をしますと、僕のフィールド活動は少し特殊です。若い頃、冒険家の植村直己さんの著書を読んで影響を受け、個人的な冒険心から足を踏み入れた北極でした。そんな中で、フィールドで活躍する研究者の方たちとの出会いから、観測調査へ参加させてもらうようになり、極地観測に興味を抱きました。今では知らぬ間に、フィールド(主に北極)での観測調査サポートが仕事になってしまいました。グリーンランドを中心に活動を続けています。  

コロナ騒動が止まず規制が厳しい中、例年通り11月に、グリーンランド最北にある先住民族の村、シオラパルクに到着しました。すでに1ヶ月が経とうとしており、間もなくクリスマスを迎えます。もともとはシャーマニズムの世界だったエスキモー民族(イヌイット)でしたが、近代にキリスト教が布教され、クリスマスは一年の中でも一大イベントとなっています。  

ここへ最初に訪れたのはかれこれ30年以上も前になります。その頃はまだ、僕が思い描く古き良き時代が残されていて、過酷な自然界で狩猟の民として生きる先住民族の逞しさと生命力に惹かれ、通い続けるようになり、彼らから犬ぞりや狩猟といった伝統文化の手ほどきを受けました。時間の流れと共に、すっかり生活風景も変わってしまいましたが、今では日本から研究者の皆さんも観測調査にやってくるような、認知される村となりつつあります。  

グリーンランドには、冬期にあたる11月頃から、春先の5月初旬頃まで滞在するというライフワークが続いています。自分の犬ぞりチームを持っていて、犬ぞりが僕の活動の要です(今シーズンは13頭のワンコ達がいます)。依頼を受けている観測データ収集や、また冬期に訪れる研究者の方たちのサポートの脚にも役立っていて、例えば海氷上では、スノーモービルで近寄れないような薄氷にもアプローチが可能であったり、エンジンのように壊れることも無く信用が出来るなど、決して時代遅れの移動手段とは思っていません。  

僕は2児の父親でもあるのですが、実はまだ一度も家族とクリスマスを共に過ごしたことがないんです。なんともいけない旦那であり父親なのですが、カミサンとは15年ほど前に、南極観測隊のドーム基地で知り合いました。そこで隊員の皆さんと共にクリスマスを過ごしたきりです。南極から帰国後に結婚しましたが、その年の冬からまた僕は、本来の自分のフィールドであるグリーンランドへと戻り、北極での活動を繰り返しています。  

こういった状態で(笑)、結婚生活が果たして成り立つのかとよく聞かれるのですが、稀なケースなのかもしれませんが、上手くいっているのです(自分が思ってるだけか?!)。カミサンも研究者ではありませんが、南極観測を経験していることもあり(そういった世界に興味があり)、僕の北極活動にも理解を示してくれているのが救いです。  

北極で経験を重ねて、その目標が大きく、明確になればなるほど、一人では何もできない、と感じるようになりました。応援・支援をして頂いている、多くの方たちもそうなのですが、僕にとって北極活動の一番の味方は、やはり家族なのだ、と最近では実感しています。
こちらではクリスマスは身内で楽しく過ごすという雰囲気があり、いつもひとりで寂しい思いをしていますが(笑)、どうぞ皆さま、良いクリスマス&新年をお迎えください。
まだ終息が見えませんが、引き続き打倒コロナで頑張りましょう!  
 
山崎 哲秀
グリーンランド・シオラパルクにて

シオラパルクの家庭でのクリスマス

写真:シオラパルクの家庭でのクリスマス
 

  



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3.子連れフィールドワーク(連載)
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ペルー子連れフィールドワーク (4) まとめ
 
蔦谷 匠(FENICS正会員・人類学・総合研究大学院大学)
 
ペルーでの調査に1歳4ヶ月の子供を連れていって得られた知見をまとめてみたい。  

どんなに些細なことでも、サポートをもらえると本当にうれしかった。今回の調査では、3人の研究者のチームに私たちが合流したため、ひとりの子供に対して5人の大人がいた。食事の時間に早く食べ終わって子供を抱っこしてくれたり、離乳食のパウチを持ってきてくれていたり、ふだんから気にかけて一緒に遊んでくれたり。子供がいることで迷惑をかけていないかとびくびくしていたけれど、そのように接してもらえることで、手段的にはもちろんのこと、親たちの情緒的にも、本当にありがたいサポートをいただけていた。  

一緒に行動する他人の目があることで、夫婦間の空気も穏やかなものになった (ように思う)。旅先では、慣れない環境での無意識のストレスと育児疲れから、夫婦のあいだのやりとりがトゲトゲしたものになりがちである。けれど、そこに他の人の存在があることで、憤懣を客観的に眺めることができて、悪い空気がエスカレートしていくのを防げていたように思う。  
 
そして、余裕のあるスケジュールと十分な準備がきわめて重要だとわかった。特に小さな子供は、大人の都合にあわせてくれるだけの身体能力や聞き分けの良さを持っていない。したがって、大人が子供の都合にあわせる必要が生じる。子供の生活リズムを考慮したスケジュールで移動や調査の予定を組み、なにごとも詰め込みすぎないようにしたほうが良い。疲れた子供の相手で親も疲れて、お互いに風邪をひいたりして共倒れしてしまうと、回復にかなりの時間が必要になる。また、そうした危機を未然に防ぐため、現地調達の可能性をあてにせず、持っていける育児関連のモノはできるだけ持っていったほうが良いかもしれない。    

標高2750 mのカハマルカの街では、すこし坂道をのぼると息苦しくなり、酸素濃度が低いためか夜中も眠りが浅かったように思った。

しかし、子供の性格、年齢、発達段階や、調査地や調査の性格によっても、ベストなやり方は変わってくのではないかと思う。私たちの場合、子供は当時体重8−9 kgだったため、航空機の乳児用バシネットを使えたが、もっとふくよかに育っていたら、飛行機移動のあいだずっと膝に抱えていなければならなかったかもしれない。また、はいはいではなく歩くこともできたため、床のほこりなどはあまり気にせずに済んだ。その一方で、まだおっぱいを吸っていたため、(主に妻のほうで) 授乳場所の確保や夜間授乳が大変であった。また、まだおむつが取れていなかったので、大量の紙おむつにスーツケースの空間が占拠されることとなった。子供が1歳4ヶ月だった当時は離乳食パウチをたくさん持っていくのが正解だったけれど (自分たちで持っていった分だけでは足りず、なんと共同研究者が持ってきてくださった分をありがたく頂戴した)、2歳になった今は別の偏食がはじまっており、もし今連れていくとしたら、食事に関してはまた違った戦略を考えなければいけないように思う。  

大変なことの多い子連れフィールドワークではあるけれど、得がたい経験であることも確かだ。子供の生活リズムにあわせることで、そうでなければ気づかない調査地の一面が見られたり、手を動かせない時間が増えるので思いがけない着想が浮かんだりもする。子供を介して現地の人たちとコミュニケーションがとりやすくなるのも利点かもしれない。子供のほうも、普段とは違う環境でなにかを学んでいるようだった。たとえば、日本の通常の暮らしではまず見ることのないウシやヤギが飼われているのを間近に見て、調査期間中に「もーも」と「めーめ」という言葉と概念を会得した。調査や研究に関する効率はどうしても半分以下になってしまうから、積極的にお勧めできるものでもないけれど、どうしても子連れでフィールドに行かねばならないなら、やってみれば意外となんとかなりますよ、と私は思う。  
 
最後に、調査を率いてくださり多大なる配慮とサポートをくださったWさん・Nさん・Kさん、そして対等なパートナーとして妻に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。  
 
(妻の側のエッセイにつづく)
  

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4.FENICSイベント
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初クラウド・ファンディング
 
コロナ禍、水のない西ケニア・ンディワ小学校の児童のために水タンク設置をめざします!!
 
 
文化人類学者・椎野若菜の調査を長年助けてくれた女性、リネット・オウマが勤務するンディワ小学校は児童数は809人(男子384人、女子425人)です。
椎野もたびたび訪れた小学校ですが、現在、水タンクも壊れたままで、児童・教師の手洗いの水がありません。トイレ掃除当番の児童は、昼休みに自宅に水をとりにいくものの、のどが渇き掃除用にもってきた水をのみほしてしまう現実。いま現在は学校はしまっていますが、1月4日の新学期には再開される予定です。
このコロナ禍、基本の手洗いができる水の確保を、いそぎしたいと思っています。なにとぞご協力をお願いいたします。
FENICSとしては、初めてのクラウド・ファンディングです。
フィールドワーカーが長年かかわる現地への還元も、このNPO法人設立のひとつの目的でもありました。
やっと試みますが、みなさま方も、ひとりではしがたい、でもそろそろ還元したいという方々、ご相談ください。FENICSがお手伝いできればと思います。
 
 


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5.FENICSからのお知らせ
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フィールドワーカーの性被害に関するイベント、第二弾を12月に企画していましたが、依頼していた女医さんが多忙で、1月に延期となりました。
テーマ提案も、いつでも受け付けますので、気楽にご連絡ください。
 
また、セクシュアルハラスメント、性被害についてのアンケートを実施しますので、また別途お知らせいたします。
 
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6.会員の活躍
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山崎 哲秀さん
 
冒頭に投稿いただいたように、北極圏を犬ぞりで遠征し環境調査を行うアバンナットプロジェクトに取り組まれています。
アバンナットプロジェクトの詳細は、山崎哲秀さんホームページhttp://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/
犬ぞりの犬サポーターを募集しておられます。
 
アバンナット北極プロジェクトで活躍する犬たちへの支援金を募っています。
支援金は全て、犬たちのドッグフード代やその輸送費、ワクチン接種代など、プロジェクトで活躍する犬たちのために使用するそうです。
 
犬のため、カレンダーも販売しています。(http://www.eonet.ne.jp/~avangnaq/custom7.html)
このたび、FENICSからみなさんへ一冊、プレゼントします。北極で生きる犬たちのたくましい、かわいいすてきな写真満載です。
ご希望の方はご応募ください!
fenicsevent@gmail.com
 
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
よいお年をおむかえください!
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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