FENICS メルマガ Vol.79 2021/2/25
1.今月のFENICS
withコロナの生活も一年がたちました。いまだ新学期からの在り方はよくよめません。ましてや、フィールドワークにはいつから行けるのでしょうか、、まだまだ読めません。新たなリスクを考えながらのフィールドワークが必須となってきたことは、たしかです。
とりわけ、さてこれからフィールドワークをしよう!と準備してきた若手の方は、いまどう考えているでしょうか。いますでに研究者で活躍されている方でも、政変や自然状況、あるいは経済的事情でいったんフィールドワークをあきらめ、また出直した経験の方もいらっしゃると思います。もし、後輩に体験談を話してもいい、という方がいらしたら、ぜひともご連絡ください。フィールドに行けない理由は異なっても、かならず後輩の励みに、ヒントになるはずです。推薦も、お待ちしています。
1月末に開催したFENICS共催サロン「女性・若手研究者がフィールドで直面するハラスメント」第2回「フィールドで、性被害に遭ってしまったら」は「女性」限定zoomで開催されました。女性の身体について、フィールドワークの際の知恵、としても学びが多くありました。
おってHPにて詳細をお伝えします。女性、男性が共有したい情報が満載でした。
それでは本号の目次です。コロナ禍のフィールドワーカーのチャレンジもみられる記事、お楽しみください。
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク (佐藤靖明)
3 子連れフィールドワーク 連載6(澤藤りかい)
4 FENICSイベント
5 会員の活躍 (川瀬慈)
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2.私のフィールドワーク
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日本国内でのバナナのフィールドワーク
佐藤靖明(民族植物学 『衣食住からの発見』編者 大阪産業大学)
佐藤靖明(民族植物学 『衣食住からの発見』編者 大阪産業大学)
海外に渡航することが難しい状況が続いている。すべてのフィールドワーカーは「テーマ」と「地域」という二つの軸を持っているので、テーマをかえずに日本の中でできることを模索している研究者も多いのでは、と想像する。
私は、これまでに海外各地でバナナの調査をおこなってきた。その一方で、日本でバナナを栽培している人や施設を訪ねることを2018年から続けている。露地栽培が難しい九州以北でバナナを育てている記事を新聞やニュースでよく目にするようになり、その動向が気になっていたのだ。また、子育ての関係で長期調査が難しい時期でも、国内ならアポをとってすぐに訪問できるというメリットもあった。
国内での調査をはじめた当初は、「お金にもならない私のような人の訪問を受け入れてくださるのだろうか」と、むしろ海外調査よりも緊張したものだった。幸い、バナナの栽培者には寛容な方が多く(とバナナ研究者の間でもよくいわれている)、日本の気候下における栽培や経営について親切に教えていただく機会を得ることができた。
そして2020年3月頃からのコロナ禍である。2020年4~5月の緊急事態宣言の最中は、さすがに国内移動もでもまったくできなかった。ようやく解除された6月上旬、農山漁村文化協会(農文協)から一本の電話をいただいた。バナナの絵本をつくりたいとの相談であった。私の所属する大学でコロナ対策の規則がようやく整い、6月末に初回の顔合わせと編集ミーティングをすることができ、7月頃からチームでの作成がはじまった。
この本では、絵とともに写真もたくさん掲載して多面的なバナナの姿を伝えることになった。世界各地のバナナの利用については、共同研究者の方にお願いして多くの写真を拝借することができた。しかし、入手が難しかったのは、バナナの細かな部位がよく分かる写真である。素人が撮ったものや解像度の低いものはあるものの、書籍のクオリティーに見合った写真は残念ながら持ち合わせていなかった。現場での撮影がどうしても必要となり、久々にフィールドワークの出番となった。
8月、コロナの第2波がやってきた。コロナの感染が拡大している沖縄に行くことは難しく、撮影場所をどこにするかについて、考えをめぐらせた。ご協力いただいたのは、訪問して以来交流を続けてきた「稲沢バナナ園」(愛知県稲沢市)である。ここは家族で経営されている小さな園だが、果実の販売ではなく収穫体験を主としたユニークな運営をされている。絵本の構成上、育っているバナナを部位ごとに切り取って撮る必要があったが、一本丸ごと切り倒しても大丈夫、との許可をいただいた。もし国産の高級バナナを生産・出荷している圃場なら一本あたり十数万円分の果実が成るので、難色を示すのが普通である。しかし、園主の石田守さんは、本の趣旨を理解して快くOKをくださり、本当にありがたかった。
コロナの感染者数が少し落ち着いた9月、農文協の芳賀敦子さん、児童書を多く手掛ける編集者である栗山淳さん、写真家の神戸圭子さんとバナナ園で待ち合わせた。私自身は、2月の沖縄訪問以来、半年ぶりの生きているバナナとの再会であった。
私は以前から、圃場でのバナナの撮影には難しさを感じていた。その理由の一つは、果実を撮ろうとすると逆光になってしまうことである。また、逆光を避けたとしても、背景も緑だと、被写体と色がかぶってしまう。この日は、ジャングルのようにバナナが生えている園内で、果実が成っていて撮影に適したバナナを探すことからはじめた。良い個体が見つかると、栗山さんと神戸さんが、レフ板とはしごを使い、慎重に角度と画角を決めて果実と雄花の部分を撮っていった。果房よりも先にある雄花の部分は、販売用の生産の場合には切り落とすので、撮影可能な状態で残してある稲沢バナナ園さんには感謝の言葉しかない。
この日は天気がかわりやすく、日光がとどく具合がすぐに変化してしまい、撮影するのに苦労した。私と芳賀さんは、撮影の邪魔になるバナナの葉をつかんで角度をかえたり、はしごやレフ板を持ったりしてサポートした。もっとも私は、プロがバナナを撮影する様子を間近で見て、カメラ初級者として感心することしきりであった。
その後、一本丸ごと切り倒しての撮影をおこなった。茎のように見える部分(偽茎)をナタで切り落とし、その中の葉(葉鞘)を一枚ずつはがして、何枚重なっているのかを数えていった(十数枚だった)。栗山さんらは、バナナの上部を自動車に詰め込み、東京へと持ち帰っていった。スタジオで後日撮影するのだという。
この日は怒涛のように訪れて園を荒らしてしまったので、そのおわびもかねて、10月に学生10名ほどを連れてバナナ園に再訪し、園の整備の手伝いをすることにした。石田さんから頼まれたのは、脇からでてくる子株を間引いて、ハウスの外に出し、細かく砕く作業であった。重労働であったが、学生たちにとっては発見の連続だったようで、その顔は充実感に満ちていた。一緒にバナナの葉の食べ比べもして、若い葉のほうが苦いことを私も初めて知った。バナナの実を一口も食べていないにもかかわらず、こんなに楽しいのはなぜなのか?毎度のことながら、バナナの不思議な面白さに取りつかれた訪問であった。
編集や校正を重ねて年が明け、2月にようやく絵本の出版となった(http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54020147/)。老若男女を問わず、さまざまな読者が学びやインスピレーションが得られるような本になったと思う。
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3.子連れフィールドワーク(連載)
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ペルー子連れフィールドワーク (6) 妻側からの視点ー現地での生活ー
澤藤りかい(日本学術振興会特別研究員/総合研究大学院大学)
クントゥルワシの宿泊施設は簡素なもので、タイル状の床に2台のベッドが置いてある。床は石造りなので子供がベッドから落ちないように気を遣い、もしものときのためにタオルなどを敷いておいた。1度か2度は目を離した隙に落ちてしまって泣いていた。大きいスーツケースを2つ持っていき、そのうち一つは子供のオムツ、離乳食、粉ミルク、洋服、子供用便座(私たちの子供は便秘気味で、この便座がないとなかなかうんちをしてくれない)で埋め尽くされた。ごはんはレトルトの離乳食を持っていった。Nさんが私達のために持ってきてくれた分もあり、2週間弱の滞在中はやりくりしてなんとか足りた。子供は少食かつ偏食なので、現地のものは麺やパン、マンゴーなどしか食べなかった。パンは気に入ったようで、食事後も片手に持って少しずつ食べていた。大人の食事中は私と夫が交代であやしながら食べていたが、早く食べ終わったWさんが代わりに面倒を見てくれたりもした。
一番大変だったのは夜の寝かしつけである。時差ボケで子供はなかなか眠らず、仕方がないので授乳(添い乳)で寝かしつけることにした。授乳のせいで私が眠れず辛い時は、夫が子供を抱いて夜中に散歩に出てくれたりもした。夫も眠くて辛い時は、また私が授乳して…と交互にあやしながら夜を過ごしていた。今となっての心残りは、ようやく終わっていた夜の授乳が、これを機に帰国後も復活してしまったことである。夜の授乳はペルー出張の帰国後から1年弱経った現在でも続いている。それまでは朝まで子供も私もぐっすり眠れていたのに、夜中に子供に起こされたり、添い乳の姿勢が辛くなって眠れなかったりと長く尾を引いているので、もっと他に良い方法がなかったのかと思ったりもする。また、調査地は高地で夜が寒く、十分に暖を取らなかったせいで、私が風邪をひいてしまい、帰国後も長引いて軽い喘息になったりもした。子育て中は何かと疲れが溜まって病気になりやすいなと感じた。
とはいえ調査のスケジュールはWさんの計らいもあり、夜の寝かしつけ以外は不安などもなく比較的快適に過ごすことができた。子供は実際に牛や羊などの生き物を見て、「モーモー」「メーメー」と何種類かの動物の鳴き声を発するようになり、普段と違う環境を新鮮な目で見て楽しんでいたようだった。近所の少し年上の男の子と交流したり、お店のお姉さん達に遊んでもらったり、車もほとんど通らない広い道をとことこ歩いたりと、刺激的な生活だったようで、目に見えていきいきとしていた。まだ完全に目を離せる年齢ではないので、夫と交代で子供をあやしながら、フィールド/博物館での資料整理や調査を実施し、また皆で博物館や遺跡の見学に行った。ペルーをフィールドにした研究はこれまで経験がなく、Wさんから直接資料の説明や遺跡の背景を聞けたことはとても有意義で、研究対象への理解がずっと深まった。資料の収蔵庫は宿泊所の階下にあったため、資料の整理をする時は夫と交代で、宿泊所にいる子供の面倒を見ていた。博物館や遺跡を訪問する際は、抱っこひもを使って子供を抱っこしながら皆で訪れた。
振り返ってみて、地球の裏側まで出張に行くのは一人でも大変なのに、子供を連れて初めてのフィールドによく行ったなあと思う。夫の同行がなかったらまず無理だった。それでも、頑張って行って良かったなと思う。COVID-19の蔓延しているこの状況下で、ペルーに限らず海外への調査には当分行けなくなってしまった。この記事を書いている現在、子供は2歳を過ぎ、言葉も話せるようになって自分の意思が出始めてきたため、いまでは別の大変さがある。最近家族で行った国内出張では、抱っこは母親じゃないと嫌だと駄々をこねて困ったりもした。もう少し大きくなれば子連れ出張は楽になるだろうか、それとも逆に大変になるだろうか、とぼんやり考えている。
子供を連れてのペルー滞在を受け入れて出張を計画してくれたWさん、常に子供へ配慮して飛行機の予定も組んでくれたNさん、子連れ出張に嫌な顔せず面倒を見てくれたKさん、同行してくれた夫には本当に感謝である。
(おわり)
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4.FENICSイベント
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FENICS共催サロンzoom 2021.3.26 (金)21:30~
変人類学研究所と共催で子育てサロンを開催予定です。
フィールドワーカーは世界の子育てをみる機会があります。そうした視点でフィールドワーカーのみなさん、一般のみなさんと、日本の子育てについても考えてみたい、そういう思いで開催します。
詳細は後日お伝えします、お楽しみに!
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6.会員の活躍
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川瀬慈さん (『フィールド映像術』編者・国立民族学博物館)
からのお知らせです。
■エトノスシネマ
特集『アフリカからみる映像人類学の縁(エッジ)』
先月より、ヴィジュアルフォークロアの企画・運営による
民族誌映画のオンライン配信サイト、エトノスシネマにおいて
アフリカでのフィールドワーク作品の特集配信が開始しています。
エトノスシネマでは、見る機会の限られている様々な作品を配信していく
予定です。
■Anthro-film Laboratory 44
Anthro-film Laboratoryは映像実践に興味を持つ人類学者の有志を中心に
2012年にはじまった映像人類学の研究会です。人類学者が
制作した民族誌映画、インスタレーション作品等のブラッシュアップを
目的とした会合を継続してきました。本会で発表・議論された
作品の多くは、国際民族誌映画祭、ドキュメンタリー映画祭、
アートフェスティバルにおいて入選・受賞し、国内外の大学講義の場においても
ひろく活用されています。次回44回は、カメルーンの若手映像人類学者の
2作品の視聴と議論(Zoom Meeting)です。映像制作に興味を持たれる方はご参加
検討ください。
Anthro-film Laboratory 44
The Image-making from Africa, Part 2 -Perspectives from Visual Anthropology-
(Zoom Meeting)
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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