FENICS メルマガ Vol.26 2016/9/25

1.今月のFENICS

雨の多い9月でした。なかには一夏に2,3回、異なるフィールドに赴く方もいらっしゃるようです。
みなさん、ご無事でご帰国でしょうか。
さて、暑さも和らいできて、秋になってまいりました。先週末には哺乳類学会で12巻にまつわる自由集会が開催され、これから10月には1日から3回のイベントが東京であります(場所が偏っていてごめんなさい)。

また、フィールドフォトコンテストが始まっています(https://goo.gl/0cXrpa)ぜひとも夏に撮った写真、それまでのご自分のコレクションのなかから、ご応募ください!!!
11月26日のFENICS大イベントには、あらゆる分野のフィールドワーカーによる写真展を楽しみに集まりたいものです!

それでは本号の目次です。

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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(蔦谷匠)
3.フィールドワーカーのおすすめ(杉江あい)
4.フィールドごはん(佐本英規)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動

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2.私のフィールドワーク
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眠るコウモリ
蔦谷匠(霊長類学、自然人類学)

私は、オランウータンの調査地であるダナムバレイ森林保護区(マレーシア・サバ州)で研究を進めている。ダナムバレイは現地の財団によって管理されており、この財団の運営する宿泊施設(ボルネオ・レインフォレスト・ロッジ)が保護区内に建っている。ロッジの周囲には歩道があり、一部の歩道の脇には景観のために手入れされた植物も生えている。

いつものようにオランウータンを追跡調査していたある日、そうした植物のひとつを指して、現地のガイドが「Takumi(私の名前)、この葉っぱのなかにコウモリがいるぞ」と言う。んん?コウモリ? その植物(バショウ科とのこと)は、高さ1−2 mくらいで、バナナの葉のように大きな葉っぱが、ウコンのように根本から何本もシュッシュッと生えている。アイスクリームのコーンのようにくるくると丸まった葉をそっと手にとって、現地のガイドは中を見るようにうながす。

上からのぞきこむと、もふもふした黒くて小さなものが中にいて、それにはたしかにコウモリのものらしい耳や鼻がついている。「あらまあ」と思いながらガイドと顔を見合わせ、「ホントだねえ、ありがとう」と言いながらカメラを取り出そうとする。しかし、その小さなコウモリは、われわれの気配に気づいたのか、写真に撮られる前にそそくさと、丸まった葉っぱから飛び去っていってしまった。

ちなみに、マレーシア語の感嘆の言葉は「Alamak」であり、日本語の感嘆の言葉「あらまっ!」と非常に似通って聞こえる。はじめて調査地を訪れた日本人研究者が、現地の調査アシスタントが「Alamak!」と言うのを聞いて、「これは誰かが教えたのですか…?」と訝しげに尋ねてきたこともあった。

さてそれ以来、その植物の丸まった葉を見かけるたびに中をのぞいてみるものの、未だに再びコウモリをみつけることはできていない。黒くてもふもふしたその寝姿を思い出すにつけ、しっかりした大きな葉っぱに包まれてすやすや眠るコウモリが、なんだかとてもうらやましく思えてくるのであった。

フィールドへの主な行き方:
マレーシア航空などを利用してサバ州のコタキナバルに飛び、そこから国内線でラハダツまで移動。サバ財団の送迎用自動車に乗せてもらい、2−3時間かけて森の中の調査地へ。

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3.フィールドワーカーのおすすめ
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杉江あい(地理学 9巻執筆者)

私がフィールドワークを行っているバングラデシュでは、隣国インドの映画やドラマも放送されている。「マイネームイズハーン」はバングラデシュで見た映画の1つである。主人公のリズワンはインドで生まれ育ったムスリムで、渡米後ヒンドゥーのインド系女性と結婚し、幸せな家庭を持つ。しかし、9.11後、ムスリム移民に向けられた憎悪により、ハーンというムスリムであることを明示する姓を名乗っていたリズワン一家の幸せは崩壊する。‘My name is Khan。 I’m not terrorist’――この言葉を米大統領に伝えるため、リズワンは大統領の後を追ってアメリカ中を巡ることになる。

この映画が発する最も重要なメッセージは、宗教やエスニシティ等によってある人々を一面的に特定のイメージでラベリングすることへの批判であると私は思う。それは、リズワンが少年時代にヒンドゥー・ムスリム間の暴動を目の当たりにするなかで、「いいことをするよい人と悪いことをする悪い人。人間の違いはそれだけ。他は何も違わない」と母から教わったことに表れている。宗教間対立、ムスリム移民排撃、テロリズム等、この映画が扱っている諸問題が各国で深刻化している現在、改めて広く見られることが望まれる映画である。

(アマゾンでのDVD)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0047CPJLW

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4.フィールドごはん
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佐本英規(文化人類学)

南太平洋のソロモン諸島、マライタ島のアレアレと呼ばれる地域では、ほぼ毎日ココナツ料理を食べる。他にこれといった調味料がないのである。あったとしてもせいぜい塩。

主食のイモ類を美味しくいただくにはココナツが不可欠だ。成熟したココナツの胚乳を掻きとり、蒸かしたサツマイモと一緒に口の中に放り込むのが手っ取り早い食べ方である。魚介類やマングローブの実は、削った胚乳を水に浸して絞ったココナツミルクで煮込む。潮の風味とタンパク質の染み出た煮汁はまさに絶品。ココナツミルクはしばらく暖めるとクリーム状に、さらに加熱するとオイル状になる。ねっとりしたクリームとパサパサのサツマイモの食べ合わせは格別である。
蒸かしたタロイモを杵でついて丸めた腹持ちのするイモ団子は、温かいクリームか熱いオイルをつけていただくのが定番。摺り下ろしたキャッサバを石蒸し焼きにしたプディングにも、もちろんクリームがたっぷり混ぜ込んである。

連日のココナツ尽くし。ときどき食卓にのぼる輸入品の米までココナツミルクで炊く。なにせ他にこれといった調味料がないのである。しかし不思議と飽きない。むしろココナツがないときの情けない気分といったらない。そんな日は炊事小屋で悲嘆の声があがる。「ココナツないの?ただのサツマイモだけなんて!」。こうなるとほとんどココナツ中毒。
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5.今後のFENICSイベント
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さあ、FENICSイベントたくさんあります、スケジュール帳にお書留ください!

(1)10月1日(土)FENICS協力イベント@大田区“新しい場所を出現させよう”北京から現場報告:事件としてのテント芝居
(2)10月15日(土)FENICSサロン@本郷「写真表現から読み解く、妊婦への眼差し」
(3)10月17日締切 「FENICSフォトコンテスト!」
(4)11月26日(土)FENICS大イベント@吉祥寺「フィールド・フォトグラフィーの祭典」
(5)フィールドで「音」を集めて来よう!

:::::::各イベント詳細は下記のとおり♫:::::::

(1)FENICS協力イベント「本と工房の家」フィールドトーク02
“新しい場所を出現させよう”北京から現場報告:事件としてのテント芝居

【日時】 2016年10月1日(土)14:00-16:00
【場所】「本と工房の家」(東京大田区)
【話者】韓冰(ハン・ビン)(編集者・北京流火テント劇社メンバー)

日本語での開催です。

【共催】エクスプランテ、トヨタ財団2015年度研究助成(研究代表者:丹羽朋子)
【協力】NPO FENICS

(2)10月15日(土)FENICSサロン@本郷「写真表現から読み解く、妊婦への眼差し」

https://www.facebook.com/events/1743067295968089/
日時:2016年10月15日(土)13:00~16:00
場所:東京外国語大学本郷サテライト8F
資料代 500円
共催:小林美香(写真研究者・東京国立近代美術館客員研究員)+FENICS(椎野若菜・東京外大AA研)

マタニティフォト(出産を間近に控えた女性が撮影する記念写真)は、2000年代末から急速に広まり、雑誌やインターネット、SNSのようなメディアでさまざまな反響を引き起こしています。マタニティフォトの表現の変遷を辿りながら、女性の身体の表象に関わるさまざまな要素(アート、ファッション、人種、セクシュアリティ、生殖医療など)について考えていきます。

クロストーク 馬場磨貴×小林美香

(3)10月17日締切 「FENICSフォトコンテスト!」

フィールドで撮った写真を、ぜひともご応募ください!!!
本FENICS企画では、フィールドワーカーによる写真を、フィールドワーカー同士で、また一般の方、そして写真研究者に見てもらう機会を設けます。あなたがフィールドで撮った写真は、どのように読まれるのだろうか?研究との関連、被写体にアプローチしたきっかけや思いも付して、ぜひともご応募ください!
小林美香さん(東京国立近代美術館客員研究員)、14巻編者、FENICSコアメンバー数人にて選考、入選者の写真は、11月26日のFENICSイベントにてパネル展示します。また別途、都内のサロンにて展示予定です。

締切:10月17日(月)
提出内容: 各写真について、下記の情報をご記載ください。

A. 作品画像 (25MBまで) ひとり5枚まで
B. 撮影時の基本情報(カメラ、レンズの情報、撮影場所、撮影年)
C. 各写真についてのタイトルと解説(300字以内)。何を目的で撮ったのか、被写体と撮影者の関係など撮影時の情報
D.プロフィール(氏名、専門、所属、初めてそのフィールドに行った年など)
E. 「人」、「風景」、「モノ(遺跡を含む)」分野、いずれかを選択。

送付先: 上記提出物A,B,C,D,Eを記載のうえ、データをメールで
fenicsevent@gmail.com
宛にお送りください。ご質問、お問い合わせ、いつでもどうぞ。

(4)11月26日(土)FENICS大イベント@吉祥寺「フィールド・フォトグラフィーの祭典」

ご友人と、ご家族と、お越しください!
あなたの写真を10月17日までにFENICSに送ることも忘れずに!
入選写真はパネルにて展示、写真展併設イベントです!

日時:2016年11月26日(土)
14:00~16:30 (13:30開場)
場所:武蔵野公会堂 第一・第二会議室
JR吉祥寺駅南口から徒歩2分。井の頭公園に向かう途中
http://www.musashino-culture.or.jp/sisetu/koukaido/access.html
子供部屋:第二和室(会場のとなり)
お子様連れ歓迎です!

https://www.facebook.com/events/1755286751386644/
(5)フィールドで「音」を集めて来よう!

フィールドでのあらゆる音をお手持ちのiphoneで、ビデオカメラで、録音機器で、録音してみてください!!
FENICS会員の下中菜穂さんがFENICSとともに
江戸時代の人達が菊合わせ、手ぬぐい合わせを楽しんだように、
みんなで耳を澄ませて、何かを聞き取ろうとする「音合わせ」を楽しむ企画を考えています。
https://goo.gl/HTiHaa

「どこで、何の音を録ったのか」という情報もあわせてお送りください。
e.g.) 2016.8.16 Nairobi,Kamgemi slum, 子どもたちが歌い、遊ぶ様子 3mins
http://www.fenics.jpn.org/…/304/Children_at_Nairobi_Slum.m4a
データはfenicsevent@gmail.com へメールの添付などでお送りください。
やりかたが分からない場合は、お気兼ねなくお問い合わせください。
皆さんのフィールドの音をお待ちしております。

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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第2巻
『フィールドの見方』(増田研・梶丸岳・椎野若菜編)
「マラリア研究をめぐるアプローチいろいろ―国際保健と人類学のツンデレ関係」
(増田研)

私がここで論じるのは、国際保険と人類学のツンデレ関係である。一方の主役は長期間のフィールドワークにもとづいて民族誌的記述を積み上げ、人類社会の文化の普遍性と多様性を論じてきた人類学。もう一方の主役は開発途上国における感染症の撲滅のために、その技術の確立と普及に努める国際保健。

両者はこれまでも、そして、いまでもツンデレな関係にある。人類学は国際保健をはじめとする開発事象を鬱陶しく思いながらも、心のどこかでは「ぼくのこと気にかけてほしいな」と思っている。国際保健にとって人類学は、「
気になるけど、かかわり合いになると面倒なことになりそうなアイツ」である。それなのに、下手にデレつくと後で周りから何をいわれるかわからない、だからあんまり深入りしないでおこうという妙な斥力が、両者の間には働いている。……

(2巻のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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(1) 植竹淳さん(8巻執筆者)がご著書をだされました!的場さんより推薦文いただきました。

植竹淳『フィールドの生物学−(19) 雪と氷の世界を旅してー氷河微生物から環境変動を探る』

東海大学出版部 ISBN978-4-486-02000-4 2000円+税

著者の植竹淳さんは、北極から南極、アフリカなどなど世界中の雪氷圏をフィールドに、氷河や雪に住む生物、微生物を研究している。本書は、植竹さんが「雪氷生物学」を知った大学四年生の頃から現在に至るまでの、いわゆる「研究の半生」をフィールドワークの旅行記の形で綴られ、アルタイ山脈、グリーンランド、ルウェンゾリ山などの生活や観測の様子とともに、マニアックかつ魅力的な雪氷生物研究が語られている。
(FENICSシリーズ12巻、10巻編者 的場澄人/北海道大学)

(2) 9月28日@恵比寿 会員の久世濃子さんが登壇されます。ご参考に!!
【NPO×クラウドファンディングの戦略会議! 〜ここでしか聞けない寄付月間のノウハウ〜】

寄付キャンペーンを利用された団体様のトークや、このイベントのみのオリジナル企画、JG事務局長のファシリテートによる寄付キャンペーン事例研究など、今冬の寄付キャンペーン企画に役立つ内容満載の大変貴重な機会となっております!
NPO団体様同士のご交流、寄付集めに対する情報交換の場としてお役立て下さい。
https://www.facebook.com/events/1757904334491304/

■参加資格 理事、常勤職員、ボランティアなどで非営利団体との関わりがある方
■日時 9月28日(水)19 : 00~21 : 00 18:30受付開始 ※5分前には受付にお越し下さい。
■場所 EIJI PRESS Lab JR・メトロ恵比寿駅より徒歩3分
■料金 お一人様1,000円

いつでも、それぞれのご活動の情報、お寄せください!
また、FENICSとともに共催イベントなどのご相談もお寄せください!


寄稿者紹介

霊長類学、自然人類学 |

(霊長類学、自然人類学)


地理学

9巻執筆者


文化人類学 |

(文化人類学)