FENICS メルマガ Vol.44 2018/3/25 
 
1.今月のFENICS 
 
 気温の変化の激しい3月で桜の開花もはやまりました。もう今年度も終わり。さまざまな節目をお迎えの方もいらっしゃるでしょう。
今月は、FENICS代表の椎野が『赤旗』の家庭欄に連載のお話をいただき、3月の毎週金曜日(2日、9日、16日、23日、30日の5回)に「フィールドで出合う社会」というタイトルで5回書かせていただきました。FENICSの活動を、少しでも多くの方に知っていただきたいと思っております。
最終回は今週の金曜となります。
(1)「フィールドワーカーって」(2)「失敗から教わる発見が」(3)「正しい答えはある?」(4)「子持ちフィールドワーカー」(5)「異分野がつながる場を」という5回です。正会員限定で、読んでいただくようにしたいと思っております。ご希望の方はご連絡ください。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(蔦谷匠)
3.フィールドごはん(横田祥子)
4.FENICSイベントリポート
5.FENICS協力イベント
6.FENICS会員の活躍(星泉)
 
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1.私のフィールドワーク
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コペンハーゲンの「ワーク」と「ライフ」
          蔦谷 匠(京都大学理学研究科)
 

2017年11-12月から2018年3月にかけて、夫婦そろってデンマークに渡航し、コペンハーゲン大学で研究を実施した。妻はGeoGeneticsセンターへ古代DNAの研究に、私は自然史博物館へ古代タンパク質の研究に。ラボで実験をして得られた結果を解析するのだが、コペンハーゲン大学には世界最高峰のクリーンラボがあり、先端的な研究を実施している研究者が集まり、古代分子の研究をリードしている。「そこでしか得られない知見がある/そこでしかできない研究がある」場所を「フィールド」と定義するなら、今回、研究はほとんど実験室で実施していたけれど、これも広義のフィールドワークになるであろう。とはじめに言い訳がましいことを書いておく…

デンマークの人びとは「ワーク」だけでなく「ライフ」もとても大事にする。また、男性であってもよく子育てをしている。15時を過ぎると子供の送り迎えをする父親や母親がそこかしこにおり、カフェ併設のパン屋さんに立ち寄って、一緒におやつを食べながら、子供に絵本を読み聞かせたりしているのを見た。朝の通勤時間帯には、ベビーカーを押した父親が電車内によく見られた。

通勤と言えば、コペンハーゲンは自転車都市でもある。しっかり整えられた専用の道を、老若男女かかわりなく、たくさんの人が自転車に乗って通勤してくる。クリスチャニアバイクと呼ばれる、台車並みに大きな前カゴのついた自転車もよく見かけた(写真参照)。クリスチャニアはコペンハーゲンの中にある「自治地区」で、このタイプの自転車はここの発祥なのだとか。クリスチャニアバイクの台車のなかに子供を2人くらい乗せて、送り迎えの母親や父親が、一人乗りの私をさっそうと追い越していくのだった! 

大学でも、多くの人びとは8-9時くらいに研究室に来て、1時間くらい同僚とおしゃべりしながら昼食をとり、子持ちの人はときには15時くらいで、独身の人でも17-18時には帰宅するのが一般的なワーキングスタイルだった。もちろん休日には、ほとんどの人が大学には来ない。上の階の研究室の男性PIは、子供の送り迎えのために、15時くらいに自転車に乗って帰ってしまうこともしばしばだった。また隣の研究室の女性PIは、妊娠中の大きなお腹を抱えながらはつらつと仕事をし、大学に連れてきた上の子供を横で遊ばせながら、お茶部屋で同僚とディスカッションしたりもしていた。

こんなに短い時間で、どうしてあんなにインパクトのある研究を発表しつづけられるのか不思議に思ったけれど、夜や休日に同僚にメールを送ると、間髪おかずにすぐに返信が来たりすることもよくあった。どうやら家でも仕事をしているらしいのだった。大学に長い時間しばりつけられず、柔軟な働き方ができるのかもしれないと想像する。
短期間の「フィールドワーク」では良い面しか見えてこないのかもしれないけれど、誰もがポジティブにワークとライフを回していて、なんだか良いなあと思った3ヶ月間であった。
 
 
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2. フィールドごはん
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まずい?台湾料理「鶏酒」
 
          横田祥子(7巻『社会問題と出会う』執筆者)
 
台湾といえば、美食のイメージが強いが、長く生活していると、正直まずい分類に入る料理にも遭遇する。その一つが、「鶏酒」(ゲジウ、客家語)という料理であり、雌鶏を生姜で炒めたのち、酒と煮込み、砂糖で味付けして作る。できあがりは、油で温度が高くなった強烈な熱燗とともに、酒のにおいがぷんぷんする鶏肉の塊を食べるという具合になる。下戸の私はにおいだけで酔ってしまいそうだ。この料理は冬の寒い時に体を温めるため、あるいは産婦が体を回復させるために食べられる。産婦が「鶏酒」を何匹分食べたかは後々語り草となる。

さて、私は『社会問題と出会う』でも書かせていただいたが、台湾中部の客家人地域で、国際結婚を機に中国・東南アジア諸国から移住した女性とその家族について研究している。2005年当時、婚姻移民から出産後、台湾人姑に「鶏酒」を毎日食べさせられ、非常に辛かったという話を聞いた。産褥の方法は社会によって異なるが、台湾人姑は台湾式で嫁の体を労ろうと張り切るようだ。

「鶏酒」を例に嫁の文化的背景への配慮を呼びかける文章をある雑誌に寄稿したところ、「お前はまだ美味しい鶏酒を食べたことがないのだ」と、私のために「鶏酒」を食べる会が開かれた。私は圧力に負けて美味しいと連呼し、何とか解放してもらった。どうやら地元の人々は「鶏酒」の味にかなりの自信を持っているようだ。
 
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4.FENICSイベントリポート
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昨年12月のEC(エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ)七夜上映会はおかげさまで、7日間の平均で7割を超える座席が埋まり、多くの好評の声をいただくとともに、
その後、ECを貸し出ししての上映会なども増え、ご足労いただいた皆様には大変感謝しております。
 
7日間各夜のレポートを、首都大と東大の人類学研究室の院生さんと、東京造形大の学生さんが書いてくださったものが出揃い、ウェブサイトにアップしましたので ご報告します(チベット回はイラスト入りです!)
 
また来年度もEC関連のイベントを企画しています。よろしくお願いいたします!
 
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5.FENICS協力イベント

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「あの日から と これから の表現

~東日本大震災以後の日常の記録・創作・共有をめぐる上映/座談会」
 
日時: 2018 年 4 月 1 日(日) 13:30~17:00(開場13:00)
場所: ギャラリー古藤 (西武池袋線江古田駅より徒歩6分)
▶︎問合せ info.yixinshe@gmail.com
▶︎入場無料(定員40名)
*現在、満席につき、下記Peatix告知サイトにてキャンセル待ち予約を受け付けております。キャンセルが出た場合、順次連絡差し上げます。
http://anohikaratokorekara.peatix.com/
▶︎チラシ
http://www.toyotafound.or.jp/research/2017/tevent/data/2018-0308-1543.pdf
 
2011年に起きた東日本大震災と原子力災害。
あたりまえにあった暮らしが一変したあの日から、
被災地と呼ばれるようになった場所で、 カメラを手に自らをとりまく日常を記録し、さまざまな創作活動に挑んできた、10代の表現者たちがいました。
自身や身近な人の痛みや怒り、悲しみや愛おしさ。
失われゆくものと、生まれつつあるもの。
鋭い感受性をもってそれらと向き合い、
「作ること」を通じて多様な人々へとひらいていく作業には、
どんな〈伝える技術〉の工夫やしんどさ、気づきがあったのか。
あの日からなにが変わり、なにが変わらなくて、これからなにを変えたいのか。
震災から7年。4組の作り手たちとこれまでの作品を振り返り、
また現在の新たな活動を紹介しながら、
今思うこと、そしてこれからの表現について語り合います。
 
〈上映作品〉
福島県立相馬高校放送局 「今 伝えたいこと (仮)」(2013年) ほか
田村香織 「19さいだった私」(2013年)
佐竹真紀子「この町から問いかけて」(2016年)ほか
蓑野由季 「いつか壁が消えるなら」(2017年)
 
〈座談会〉
赤坂憲雄 / 相馬クロニクル(藤岡由伊、小泉結佳、渡部義弘)/ 田村香織 / 佐竹真紀子ほか
 
*作品制作者や登壇者の詳細は以下よりご覧ください。
 
企画:丹羽朋子/渡部義弘(相馬クロニクル) 
助成:公益財団法人 トヨタ財団 
協力:NPO法人 FENICS 
問合せ:info.yixinshe@gmail.com 
 
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6.FENICS会員の活躍
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星泉さんのかかわるイベントです。
 
『チベット牧畜文化辞典』パイロット版公開記念ワークショップ「『チベット牧畜文化辞典』の未来を語る」
/「青海チベット牧畜民の伝統文化とその変容~ドキュメンタリー言語学の手法に基づいて~」
 
 
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のチベット牧畜文化辞典編纂プロジェクトがこの3月に公開する『チベット牧畜文化辞典』(パイロット版)を記念して、チベット牧畜文化辞典の未来について語り合うワークショップを開催します。様々な分野からゲストをお招きして、今後「辞典」をどのように活用し、育てていったらよいのか話し合います。ご関心のある方はどなたでも歓迎。お誘い合わせのうえ、どうぞご来場ください。
 
日時:2018年3月28日(水)13:00−17:00(12:30開場)
 
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 3階304室
 
プログラム
※*印はチベット牧畜辞典編纂プロジェクトのメンバーです。
星泉*(AA研) ごあいさつ
別所裕介*(AA研共同研究員、駒澤大学) 辞典への新たな視点①
平田昌弘*(AA研共同研究員、帯広畜産大学)辞典への新たな視点②
小野田俊蔵(佛教大学)辞典への新たな視点③
海老原志穂*(AA研共同研究員、AA研ジュニア・フェロー)辞典の研究への応用
 
研究の現地還元
アプリ開発
山越康裕(AA研)、児倉徳和(AA研)
チベット人留学生との対話
司会 星泉
16:00−17:00 パネル・ディスカッション「辞典をより豊かなものにするために」
 
ゲスト 町田和彦(元AA研所員、東京外国語大学名誉教授)
司会 別所裕介(駒澤大学)
コメンテーター
加納和雄(駒澤大学)、岩田啓介*(日本学術振興会/東京外国語大学)、津曲真一*(東京理科大学)
小川龍之介*(帯広畜産大学)
 
参加費 無料
 事前申込 不要
問い合わせ:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 LingDy3事務局
 
E-mail: info-lingdy[at]aacore.net(※[at]を@に変えて送信してください。)
 
 
以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。
 
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
 
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

霊長類学、自然人類学 |

(霊長類学、自然人類学)

滋賀県立大学, 人間文化学部 |

文化人類学・民俗学

第7巻『社会問題と出会う』執筆者