FENICS メルマガ Vol.101 2022/12/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
12月も暮れとなりました。みなさま、それぞれにどのようなクリスマスをお過ごしでしたでしょうか。
私のクリスマスは、先日にお知らせしましたように、大石高典さん(人類学・アフリカ・東京外国語大)が企画したTUFSシネマイベントに出かけました。
アフリカをルーツにもつ女性の作った短編ムービー、友人たちと作ったムービーとミニコンサート(TUFSシネマ 自主制作映画『エミリーとブレーキー』上映会)。
ミックスの子どもたち、若者、日本在住アフリカ人も多く参加し、日本社会について、日本の子どもたちや学生たちの世界について、そしてその子どもたちの環境をつくっている大人たちについて・・・多くを考えさせられました。
このFENICSもそうですが、自分が気になる!面白い!と思ったことを通じ、人とつながり、共感し、考え、何か共に企画や活動をする。フィールドワークの延長にある、日常の一部にこうした活動があると、人生が前向きに生産的になるのでは、と改めて思いました。
 
先週に開催した、明治大学の碇ゼミと門間美佳先生(産婦人科医)をお迎えしたFENICSイベントでも、参加者同士で大きな出会いや刺激がありました。今号ではさっそくにレポートを書いてくださった松岡さん、そして博論をだしたばかりの多良さんからも連載をいただきました。お楽しみください。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク⑤(多良竜太郎)
3 FENICSイベント報告 (松岡由美子)
4 FENICSからのお知らせ
5 FENICS会員の活躍 
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2. 私のフィールドワーク
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日本とアフリカで木炭生産の現場を探る(その5)
日本での新たな調査―大阪府能勢町における菊炭―
 
多良竜太郎(京都大学、生態人類学)
 
タンザニアでは地面に並べた木材を草と土で覆って炭化する「伏せ焼き法」をつかって、広く炭焼きがおこなわれている。「伏せ焼き法」は原初的にみえるが、技術のない者が炭焼きをすれば木材は燃焼して灰となり、多くの木炭を多く得ることができない。タンザニアの炭焼き職人たちは、木材の選択、木材の積み上げ方、炭化中に伏せ焼きの介入など、経験にもとづいて伏せ焼き法を確立してきたことがわかってきた。「これから彼らの製炭技術をより体系的に理解していこう」と考えていた矢先にCOVID-19が世界的に流行し、海外渡航することができなくなってしまった。
  
タンザニアの「伏せ焼き法」は不明なことだらけで私は「これから日本でどのように研究を進めていこうか」不安だった。しかしながら、日本には長い炭焼きの歴史があり、炭窯をつかった製炭技術に関してこれまで詳しく調査されてきたうえに、各作業に科学的な意味づけがなされている場合もある。そこで、これまでの調査で明らかになったタンザニアの炭焼き職人の「伏せ焼き法」の技術を体系的に理解する視座を得るために、私は日本の木炭の生産実態や製炭技術に関する研究を新たにはじめることにした。
  
日本の製炭技術が世界でも類をみないほど優れているとされる背景には、古くから茶道の文化が根付いてきたため、茶道専用の木炭「茶の湯炭=菊炭」が求められてきたことが一因と指摘されている。クヌギを原料とする茶の湯炭は、その断面に放射状の細かいひびが入っていて、菊の花に見えることから「菊炭」ともよばれる。全国的に有名な菊炭の一つに「池田炭」がある。近世のはじめより大阪府妙見山麓地域で生産された木炭が、現在の大阪府池田市に集積され、都に送られていたことから「池田炭」とよばれている。今日、池田炭は「大阪のチベット」とも称され、大阪府最北端に位置し四方を山で囲まれる能勢町にて生産されていて、別名「能勢菊炭」という。

クヌギ材と完成した菊炭

2021年2~3月にかけて、私は能勢町で唯一の菊炭職人である小谷義隆氏のもとでお世話になりながら、彼の一連の炭焼き作業を詳細に参与観察した。「大阪のチベット」とよばれるだけあって、毎朝の気温は氷点下を下回り、作業中にまつ毛が凍ることもしばしばあった。炭焼きがいかに大変な作業であるかを実感する貴重な機会となった。
 
菊炭は商品である以上、使い手(消費者)が求める条件がいくつか存在する。小谷氏によると①菊炭は樹皮が密着していること、➁樹皮は柳肌のように滑らかであること、③炭の切り口が中心から菊の花のように細かく放射状に均一にわれていること、④炭の切り口が真円に近いこと、さらにお茶会でつかうときにほのかにクヌギの香りがすること、があるという。これは菊炭が単に釜の湯を沸かすだけの燃料ではなく、茶会に参加する人たちが菊炭の見た目の美しさや燃えるときの香りを楽しむものでもあることを反映している。そのため、樹皮が剥がれているものや、木炭の一部が燃焼して白くなっているものは茶会用ではなく、稽古用として取引される。一度の炭焼きから得られる「茶の湯炭」は全体の8割ほどだという。この割合を高めていくことが菊炭職人の腕の見せ所なのである。
 
(続く)

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3. FENICS イベントリポート
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★イベントレポート(松岡由美子)★FENICS×ジェンダー・セクシャリティ人類学研究会×東京外国語大学男女共同参画推進委員会 共催zoomサロン「大学生と話そう/身体・恋愛・性の座談会」(2022/12/19開催)
 
 松岡由美子(東京外国語大学大学院)
  
 サロンではまず、明治大学政治経済学部碇ゼミの大学生さんたちからのプレゼンテーションがありました。彼らは、「私たちはなぜ生理を隠すのか?-生理の経験についての文化人類学的研究」と題するゼミ論をみなさんで書き上げたばかりでした。  
このテーマに至ったきっかけは、大学のトイレに設置してある無料ナプキンを人の居るときに手に取りにくい、使っていないという会話からだそうです。52歳である私はまずこの発言に、自身との違いを強く感じました。私は大学に設置していただいている無料ナプキンをとても肯定的に捉えており、日々使用している20代の大学生さんたちをトイレ使用時に見ていましたし、自身も急に必要になったときにありがたく使わせていただいているからです。この違いは、世代だけが理由ではなさそうだぞ・・・と思いながら、彼らの発表に耳を傾け続けました。彼らの研究は、「フェムテック」のテレビCMが増加した理由を、それらCMには恥ずかしさがないということは、医学的に捉えているからだとしていました。医学的と言うことは生理を客観的に捉えているとし、一方女性は生理の不快感に、男性は痛みに着目していると主観的に捉え、この主観と客観の間で揺らぎながら生理を捉えていると結論づけていました。
 最近、私立男子中・高校にて6年間計画的に性教育を実施し、その一つにナプキンとタンポンを手に取り、経血に見立てた水溶液を含ませ重さを量り、使い方を学ぶことも最近新聞記事で読みました。記事を読み、最近変わって来たなあ~と嬉しく思いながらも、碇ゼミの学生さん達のリアルな「戸惑い」感を知り、そんなに簡単に誰もが「生理を語る」「生理を体験する」わけではないことを知りました。  
  
 次に、「藤沢女性クリニックもんま」の門間美佳ドクターによるレクチャーです。日本における性教育を世界に位置付け、あまりにも日本の性教育が30年前で止まっている事への危機感、その大きな理由としての「はどめ規定」、UNESCOの包括的性教育についての紹介、人生で生理回数が多いと子宮内膜症になりやすく、その結果血栓やがんなどの原因になるなど、実に多くのことを学ぶことが出来ました。その中で、特に印象的だった内容は、2つあります。一つは、子どもの居るところには小児性愛者が居る。被害当時は、性被害に遭った事を自覚できないことが多い。だからこそ、望まない性的な扱われ方を子どもは学ぶべきだというお話です。これにはハッとしました。私は講師時代も含め、26年間高校で教員をしています。現在は休業し、大学院で研究しております。以前勤務校にて、盗撮癖があり逮捕された男子生徒をそのまま在学させるか、学校として処分するかという場を経験したことがあります。私は、門間先生のお話から、彼の将来の希望を聞いてぞっとしたことを思い出したのです。彼の希望は小学校教員でした。
  
 もう一つ印象に残ったのは、子宮頸がんワクチン接種率のお話です。ルワンダが世界一の接種率だそうです。私の研究地域がルワンダであり、かつ女性・女児への性暴力をテーマにしているため、研究をさらに進める意味で印象に残りました。
 ここで、少し私の経歴を整理しつつ、考えたことを書かせていただきます。文学部の西洋史学専攻を卒業後、社会科教員として縁もゆかりもない長崎県で12年間、平和学習の担当もしながら高校で勤務しました。故郷埼玉県に戻り、県立高校での勤務は10年、その間、長崎県で経験した平和学習への違和感(不全感)を抱えながら、積極的平和のためにどのような学びを生徒に提供できるかを探してきました。それは、あちこちの大学の科目等履修生として学び、セミナーに参加し、手探りで探してきた感です。現在縁あり、現在東京外国語大学の博士前期課程で、ルワンダの性暴力を研究しています。一見、性暴力と平和は無関係なようですが、・・・・・・・・(続きはこちら)
 
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4. FENICS会員の活躍
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吉國元さん(美術家)
ドキュメンタリー映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』(原題:BLIND AMBITION)
 
全国ロードショーで公開されている(https://team-sommelier.com/theater/)ドキュメンタリー映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』(原題:BLIND AMBITION)。  
ジンバブウェが経済破綻し、インフレを起こしたことは知られている。なんと100兆、50兆、10兆・・・とジンバブウェドル札が、アマゾンでも売られているのに気づいた。
そのようなジンバブウェから移住を余儀なくされた若者たちが、南アフリカに出る。そこで、この映画のテーマとなるワインのソムリエ、なるものの物語が始まる。

映画『チーム・ジンバブエのソムリエたち』パンフレット

吉國さんから;
ジンバブエの首都ハラレでフィールドワークをなさっていた早川真悠氏(国立民族学博物館 外来研究員)のテキストなど、さまざまな方が映画について寄稿している劇場パンフレットも読み物として面白いです。
私も気合いを入れてエッセイを書きました。良い映画です。是非お求めください。
 
予告編
 
年末年始に、ぜひいかがでしょうか。
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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