FENICS メルマガ Vol.47 2018/6/25
1.今月のFENICS
この6月、国内外ともに政治的な、歴史的な、大きな動きがありました。
なによりも関西にお住まいの、大阪北部地震の被害にあわれた方々、心よりお見舞い申し上げます。
まだ片付けに追われている方もいらっしゃるかと思います。猛暑でもあり、なにとぞ、お疲れがでませんよう。
災害について、分野をこえた協力の必要性が改めて問われることと思います。
今回はこの大阪北部地震の影響で「子連れフィールドワーク」連載はお休みにします。
それでは本号の目次です。
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(吉岡美紀)
3.フィールドとライフイベント(駒澤大佐)
4.FENICSイベントレポート (宮本道人)
5.FENICS会員の活躍(宮本道人)
(小林美香・蔦谷匠)
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2.私のフィールドワーク
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御殿峠礫層に会いたい
吉岡美紀 (地理学、澤柿研究室にて充電中)
岩が崩れて小さくなっていく。地学用語では、小さくなった粒は、大きさで、泥(1/16mm以下)、砂(1/16~2mm)、礫(2mm以上) に分類される。最初からちょっと脱線すると、「礫」は「れき」と読むが、石は楽しい、とも読める。地面の下には、地球内部から上昇してきて固まった岩、砕かれて海に運ばれ海底で再び固結したのち隆起した岩、河川や風で運ばれてきてそこに積み重なっているもの等があるが、礫と呼ぶ径2mm以上の石が積み重なっている地下の層を礫層という。
東京八王子のある場所に出現した礫層を調べようとしていたところ、その近辺には「御殿峠礫層」というものがあるらしい、、、と澤柿氏から情報が入ってきた。大きいもので径30cmほどの丸みのある礫を含むとのことなので、今、調べようとしている礫層とは違うものらしい。普段いる武蔵野台地上では、時折、道路や宅地の工事現場で地下が垣間見えても、それはたいてい、関東ローム層で、大きな石には出くわさない。多摩丘陵西部の地中には、径30cmの石がゴロゴロと詰まっている層があるというのだから、これは見てみたい。
摩丘陵からみた北西側、浅川流域。長沼公園より。
多摩丘陵を西から東へ向かう尾根は分水嶺になっていて、尾根の南側は相模川の流域、北側は多摩川(細かくいうと多摩川支流の浅川)の流域になる。それぞれの河原に見られる石は上流の山から運ばれてくる。多摩丘陵のローム層の下に埋まっている「御殿峠礫層」の石は、現在の相模川にある石と種類が同じとのことで、この礫層が堆積した50万~60万年前はそこは相模川の河原で、現在の多摩川河床を越えた北側まで流れ下っていたと推測される、人類が来るよりもっと昔のこの地の成り立ちを語る礫層である、なんて聞くと、これは是非、見てみたい。
12月半ば冬晴れの日、ゼミの日帰り巡検コースの検討下見も兼ねる澤柿氏と、相原駅から御殿峠へハイキングコースになっている古道を、礫層を探して歩く。切り通しになっている区間でも、見えているのはローム層で、礫層は見つからない。峠から八王子みなみ野駅へ向かう車道沿いは、地層が見られそうな斜面は多くあるのに、コンクリートや芝できれいにおおわれてしまっている。露頭がありそうな場所を探して神社の階段を上ってみたり、脇道に入ってみたりしても、礫層は見つからない。
その日以降、礫層を探して何度か御殿峠付近を中心に歩き、数か所で礫層は見つけることができた。けれども、どれも径30cmもの大きい石は入っていないので、お目当ての御殿峠礫層ではないようだ。過去に見られたという情報を元に行ってみても、すでにその崖がコンクリートでおおわれてしまっている箇所も多い。多摩丘陵の広域宅地開発では、土地を平らにするためにこの礫層すべてが削り取られてしまった地域もあるという。3月半ばには、絹の道という古道がアスファルト道に出る手前の、路面に石の模様が見えているという場所に行ってみた。この石の模様は、石が風化した「くさり礫」が路面に沿って削られているものだと思われ、大きいものは径30cmほどある。これが石の影との出会いのような、御殿峠礫層との対面になった。
上柚木神明神社の境内でみられる御殿峠礫層
その後、影ではない、形のある御殿峠礫層が崖の上方に見つかったが私有地の囲いの中にあって近づくことができず、欲求不満でいるところに、5月半ば、やはり澤柿氏経由で、上柚木神明神社の境内で見ることができるとの情報が入った。早速、見に行き、ここでそれまでに想像していたのに近い「御殿峠礫層」と対面を果たすことができた。
一人でウロウロ探すより、詳しい人に尋ねるのが手っ取り早いですね。でも、目的の礫層を探す途中で別の礫層も見ることができ、地域を歩いて礫以外の地形や地理を見るのも楽しくて好きなんです。 (2018年6月)
参考: 八王子地域の地質、地域地質研究報告5万分の1地質図幅、植木岳雪・原英俊・長崎正紀、地質調査総合センター、2013年
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3.フィールドとライフイベント
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日本人どうしのお付き合い
駒澤大佐(FENICS第二巻『フィールドの見方』執筆者/医療社会学・耳鼻咽喉科学/東アジア・アセアン経済研究センター)
ジャカルタは、筆者にとって二度目の外国赴任地である。日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターのセンター長として勤務した前回のナイロビでは、まだ研究者に片足を突っ込んでいたが、厚生労働省から派遣の今回は完全な「駐在員」である。FENICSの会員各位がおそらくそうであるように、筆者も、現地をよく観察し、現地の人たちとよく話し、現地社会をよく理解しようと努めているつもりであるが、一方で筆者は、日本人とは関わりたくないと突っ張るほどの勇気もなく、現地の日本人コミュニティとのお付き合いも大事なことと考えてきた。実際、前回のナイロビでは、日本人社会にずいぶんお世話になった。短期の訪問ならともかく、長く住むには、居心地の良い場所が必須である。家族が居れば、なおさらだろう。事務所の活動でも、当地で邂逅した日本人研究者のみならず、様々な場面で現地の日本人社会に協力していただいた。
さて、このジャカルタ、どうも日本人社会の存在感が希薄であるように感じる。ナイロビに比べ、ジャカルタにははるかに多くの在留邦人が暮らしているはずである。街は日本食レストランが花盛りであるのに、なぜ、日本人コミュニティの存在感が希薄なのであろうか。それを考える材料として、外務省が実施している「海外在留邦人数調査統計」の結果を眺めてみた。興味深いのは、在留邦人数そのものとともに、その男女比である。試みに、女性を100とした場合の、男性の数を計算したところ、在留邦人数100人以上の国に限ると、最も上位に登場するのはサウジアラビアで320である。その他、ベトナム(237)、フィリピン(222)、中国(215)、インド(206)等が上位に位置し、インドネシアは184である。逆に、この値が低いのは、ギリシャ(40)、ノルウェー(49)、アイルランド(51)等であり、イタリア、ニュージーランド、スイス、カナダ、豪州等も低位に位置する。インドネシアも細かく見ると興味深く、バリを含むデンパサール総領事館管轄域は69と、圧倒的に女性が多い。その反面、ジャカルタを含む在インドネシア大使館領事部の管轄域に限ると、その値は227に跳ね上がる。
この結果に対しては、様々な解釈があろう。筆者のジャカルタ暮らし10か月の印象も含めると、ベトナム、インドネシア等ASEAN諸国、中国、インドは、男性単身赴任者が多いのであろう。一方で、世界の在留邦人全体では女性が多数を占める。前述のように、特に欧米では、女性が圧倒的多数を占める。興味深い対比である。本統計の結果も含めて、ジャカルタとナイロビの日本人社会の違いを、筆者なりに次のように解釈した。
1) 在留邦人数が千人未満であり、ほぼ全員と顔の見える関係を作りやすいナイロビと比べ、ジャカルタは届け出数だけでも1万5千人程度の在留邦人を持ち、一堂に会するのは不可能である。
2) また、ジャカルタは男性単身赴任者が多く、家族が主な構成員を占める場合と比べ、コミュニティを形成しにくいのではないか。
3) 一方でジャカルタでは、趣味や職場、居住地、出身地等を基にしたコミュニティが形成されているようである。在留邦人のほとんどは大規模アパート(マンション)に居住しており、良くも悪くも、アパート内の付き合いは日常生活に入り込んでくるらしい。(筆者はアパート居住ではないので、詳細不明。)
マンション暮らしが多いこと、単身赴任者が多いこと等、ジャカルタの日本人社会は、日本の大都市、特に東京と似た性質を持っている。「ムラ社会」であったナイロビの日本人社会と、「都市化」しているジャカルタの日本人社会。筆者にとって、初めての外国暮らしであったナイロビが、日本人社会についても基準として出来上がってしまったので、ジャカルタでの違和感を生み出したかもしれない。
最後に、ナイロビでは、フィールドワーカーを含む研究者と、「駐在員」及びその家族、あるいは現地で事業を起こされている方々等、一般の在留邦人との距離が、もう少し近かったような気がする。ジャカルタにも多くの研究者、フィールド研究者が訪れているはずである。インドネシア研究、東南アジア研究の成果が当地の在留邦人にも発信され、研究者と在留邦人の距離が縮まって、インドネシア、東南アジアの多様性を、在留邦人が理解する機会の増えることを願っている。
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4.FENICSイベントリポート
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2018年5月26日「野(フィールド)の遊びと学び」(FENICSサロン「世界を変える教育Ⅱ」)イベントレポート
宮本道人
2018年5月26日、武蔵小金井にて、「野(フィールド)の遊びと学び」(FENICSサロン「世界を変える教育Ⅱ」)というイベントが開催された。主催はFENICS×変人類学研究所で、二つの研究者団体による合同イベントである。
(中略)
挨拶が終わって、いよいよ講演が始まった。最初の話者は、地学・自然地理学の研究者である帝京平成大学の小森次郎さん。
小森次郎さんは学部では中国語と統計学(=麻雀)に明け暮れながら、雲仙普賢岳の噴火調査を行っていて、その後地質調査会社や私大の職員を経た後、30歳から大学院で学び直したそうだ。その後JICA職員になり、ブータンヒマラヤにおける氷河期決壊洪水に関する研究を行い、現在のような研究者になったという。小森さんの研究や学術実践の範囲は幅広く、富士山の雪崩や落石の発生状況の調査から、福島浜通りのスタディーツアーの開催など、多方面で活躍されている。
そのなかの一つが今日のテーマ「泥遊び・石遊びで学ぶ地域と自然」である。小森さんはあるとき、子供たちと一緒に多摩川で石を集めると、彼らが種類ごとに石を拾って楽しんでいることに気付いた。そのことと、子供向けのサイエンスイベントで、人力ボーリングで地面を掘って地質を見ることをやっているうちに、岩絵の具作りを教育に取り入れるというアイデアが思い浮かんだという。実は地学教育が苦手な教員は多いらしく、外に出てなにかをするハードルも学校としてなかなか高くなってしまい、生徒も学年が上がるにつれ地学を嫌いに感じてしまってゆくそうだ。
(写真:乳幼児も3人、大学生、高校教員、大学教員、医者、高齢者、ほかさまざまな方々が参加)
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5.FENICS会員の活躍
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(1)宮本道人さん(FENICS正会員/東京大学大学院)
(2)澤柿教伸さん(第10巻『フィールド技術のDIY』編者)
(3)小林美香さん・蔦谷匠さん(FENICS正会員)
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(1)宮本道人さんによる企画です。
科学技術社会論カフェ 第1回
AIと社会をめぐる議論の現在 -科学コミュニケーションに役立つSTS-
日時:7/1(日)19:00-21:30(受付開始18:45)
会場:Lab Cafe (本郷)
参加費:学生500円、一般2000円(当日払い)
※飲食物持込推奨
対象:学生、研究者、クリエイター、ジャーナリスト、科学技術社会論に関心のある周辺分野の方(先着20名で募集締切)
参加登録方法:こちらから。
話題提供:江間有沙(東京大学政策ビジョン研究センター特任講師)
主催:STS Network Japan
(2)ランタンプラン活動報告会
ー大地震から3年、村人は自立に向けて歩みはじめた
〜ランタンプラン2015‐2018 〜
と き:2018年7月1日(日) 13:30〜16:30( 開場 13:00)
ところ:JICA市ヶ谷ビル2F国際会議場
(東京都新宿区市谷本村町10-5)
定 員:100名(事前申込不要) 〈直接会場にお越しください〉
参加費:無料
報告・ランタン谷2015〜2018春 貞兼綾子(ランタンプラン)
大なだれのメカニズムと防災 澤柿教伸(法政大学)
村を襲った懸垂氷河のゆくえ 奈良間千之(新潟大学)
ヒマラヤのミジンコ・映像とトーク 竹内望(千葉大学)×坂田明 (ミュージシャン、映像出演)
主催: NGOランタンプラン
後援: 公益社団法人日本山岳会/公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会
公益社団法人 日本山岳ガイド協会/日本勤労者山岳連盟
日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト/日本ヒマラヤ協会
お問い合せ:ランタンプラン事務局 TEL 090-3397-1239(樋口)
(3)トークライブ【授乳への眼差し~写真史と人類学の視点~】
小林美香×蔦谷匠
FENICS会員の分野の異なるお二人、蔦谷匠さんと小林美香さんによるイベントです。
FENICSサロンで知り合ったお二人から生まれた企画!
*小林美香
写真研究家
*蔦谷匠(つたやたくみ)
ヒトやサルの授乳や離乳を進化や文化の観点から研究している、人類学研究者。
これまで主に、江戸時代や縄文時代といった過去の授乳・離乳習慣を復元してきたが、最近は、オランウータンの離乳や、現代人の授乳・離乳の研究もしている。
■日時 2018年7月4日 17:00~18:30
(開場10:00 展示全体は18:30まで)
■場所 かぞくって、なんだろう?展@ターナーギャラリー
https://kazokuten.wordpress.com
■参加費 無料 (カンパ歓迎☆)
■申込み 参加ボタンをぽちっとしてね!
■内容
サルの授乳、ヒトの授乳。
昔の授乳、今の授乳。
写真研究家としての視点と
人類学者の視点から
「授乳ってなんだろう?」を
みなさんと一緒に考えます。
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以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/
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